虚実という漢方の考え方

漢方医学では、「虚証(きょしょう)」、「実証(じっしょう)」と分類されます。聞かれたことがあるのではないでしょうか?
世界最古の医学書の一つ「黄帝内(こうていだい)(けい)」には、「虚するものはこれを補い、実するものはこれを瀉す」と記載されています。
つまり「虚」とは不足しているという意味合いです。逆に「実」とは充実して有り余っているという意味です。
ですから「虚」には補う治療を、「実」には瀉する(瀉下、発汗、駆逐するなど)治療が行われます。
例えば主語を栄養とすると、「虚」は栄養失調、「実」は肥満と考えられます。栄養が足らない状態では、人参を主体とする漢方薬です。
食欲を増進する(りっ)君子(くんし)(とう)や栄養失調の結果として体力低下、免疫力低下があることが想定される場合補中(ほちゅう)(えっ)()(とう)などが使われます。
一方、肥満の場合には、瀉下作用のほかに白色脂肪細胞の重量を減少させ、また熱産生を司る褐色脂肪組織を活性化する作用のある防風通(ぼうふうつう)聖散(しょうさん)などが用いられます。
黄帝内(こうていだい)(けい)」にはもう一つ、「病勢が盛んであれば実、抗病反応や生理機能の低下は虚」という記載もあります。
つまり生体防御反応が強い状態、例えば、インフルエンザのように強い病原体に侵されたような場合は、生体は高熱を発し、ウィルスをやっつけようとします。
これは実証の反応を示している訳ですから()黄湯(おうとう)のような実証の薬が適応となる訳です。
ですから日本老年医学会の高齢者に推奨する薬物の中に、インフルエンザに対する()黄湯(おうとう)が掲載されているのです。高齢者だから虚証とは限りません。
今のお年寄りは皆さん元気です。強いウィルスに対抗するために、やはり高熱を発します。
更にガイドラインの解説では、インフルエンザに対しては、熱が上がりきって下がるまで1包ずつ約4時間ごとに内服を続け、発汗解熱したらそこで止めるという使用法が効果的である。
これは高齢者でも基本的に変わらない。急性感染症に麻黄剤で治療を行う際には、短期間で効果が上がりやすい服薬方法により、かえって有害事象を招き難く治癒を促進することができると記載しているのです。
見た目倒しという言葉がありますが、一般に筋骨隆々としたプロレスラーのような方の見かけは「実証」です。
華奢なモデルさんのような方は、一見「虚証」のようにも見えます。でもこうした職業の方はいずれも鍛えているので案外、実証の方も多く、見た目だけでは判断を誤ることもあります。

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