今回は漢方医学の基本概念と言われている「虚実」について紹介します。
現在の日本漢方では漢方薬を選ぶ前に患者さんの現在の病態を把握すること、
いわゆる「証」を診ることが前提となっています。
「証」というものにもさまざまな種類があり、そのうちのひとつが「虚実」です。
皆さんのなかには、「実証」、「虚証」というワードを耳にされたことがあるかもしれませんね。
少し簡単に紹介しますと・・・
実証
|
体格がよい(腹壁が厚い)、筋肉質、免疫力が充実している、若年者に多い
|
虚証
|
痩せ型(腹壁が薄い)、免疫力が乏しい、高齢者に多い
|
となります。
これは大まかなイメージであり捉え方は一つに定まっているわけではありません。
中国最古の医学書である『黄帝内経』に記載のある2つの代表的な考え方を簡単に解説します。
1.「虚」は不足、「実」は過剰
『黄帝内経』には“虚するものはこれを補い、実するものはこれを瀉す”と記載されています。
主語に〈栄養〉というワードで考えてみると、「虚」は栄養失調、「実」は肥満と考えます。
これが日本漢方で使われる「虚実」の一般的イメージです。また、この主語にはいろいろな
語句を入れることが出来ます。
〈温かさ〉を主語にすると、冷えや熱とイメージ出来ますよね。
これらを一般的な「虚実」のイメージと区別するために、
〈冷えが強いもの〉を「陽虚」、〈熱が強いもの〉を「実熱」と表します。
2.「虚」は弱い症状、「実」は強い症状
『黄帝内経』にはもう一つ、『病気が盛んであれば実、抗病反応や生理機能の低下は虚』という
記載があります。
つまり、病気にも、生体側の抗病反応にも“強・弱”があり、そのため抗病反応としての
病態や症状に“強・弱”が生じると理解できます。
病気が弱く、患者さんの抗病反応が充実している(=実証)場合は病気が発症しませんし、
病気も抗病反応も弱い(患者さんは虚証)場合は、日和見感染として発症してしまう事でしょう。
すなわち、「虚実」は、生体そのものの状態であり、病勢であり、抗病反応であり、
それぞれから生じる症状に着目した概念ということになります。
少し判断に困るかもしれませんが、こういった病態把握の方法があるから、
漢方医学はオーダーメイド医療と呼ばれているのでしょう。