五苓散という漢方薬

お盆が明けて、だいぶ涼しくなってきました。
近年は空調機器の普及により夏バテの症状は夏の盛りの時期にみられることが多いです。

しかし、本来「夏バテ」というものは涼しくなり始めたころに夏場の疲れが現れます。

これからの気温差に体が対応しきれなくなり、
倦怠感や胃腸症状、風邪のような症状がみられる場合があるので注意してくださいね。
夏場の漢方処方には、倦怠感や食欲不振にもちいる補中(ほちゅう)(えっ)()(とう)(りっ)君子(くんし)(とう)清暑(せいしょ)(えっ)()(とう)など
がよく知られています。
そして漢方薬としての知名度は高いのに、夏場の使用が普及していないものが五苓散(ごれいさん)です。
 
漢方メーカーの情報をみると五苓散の効能効果には、
「口渇、尿量減少するものの次の諸症:浮腫、ネフローゼ、二日酔、急性胃腸カタル、下痢、
悪心、嘔吐、めまい、胃内停水、頭痛、尿毒症、暑気あたり、糖尿病」となっています。
一見何の共通点もない文字の羅列だと思いますが重要なキーワードが隠されています。

それは「水」が関与しているということです。

漢方医学では、「水」は体内を循環する透明な液体、いわゆる「体液」を示します。
健康な状態ではこの「水」が体中を円滑に巡っているのですが、なんらかの異常をきたすと
滞りや欠乏することがあります。

それが「水」の異常となります。

そして五苓散が対応する疾患は、「水」が滞ったために生じる「水毒」という病態です。
「水毒」は体の中に水溜まりができるイメージです。
 
夏場に水分をたくさん摂取したりクーラー環境下で体が冷えるなどすると、
「水毒」の病態に近づきます。
血流が悪くなるともちろん浮腫みやすくなったり、冷たいものを摂取したことによって胃腸が冷え、
下痢を起こします。
胃腸機能が低下すると水分代謝がうまくいかなくなるので熱中症も起りやすくなったり、
悪循環に陥ります。
そこで、五苓散は体の中の水のめぐりを改善する漢方薬です。
嘔吐や下痢は消化管内の水溜まり、めまいや頭痛も脳血管の浮腫と考えれば、
すべて五苓散の適応疾患ではないでしょうか。
これらより、五苓散は夏場にみられる症状、いわゆる「暑気あたり」に効能効果があるのです。
 
五苓散は実際に熱中症の点滴の効果を高める目的で使われます。
水分代謝がうまくいかない熱中症患者にはもってこいの処方でしょう。
点滴後もなかなか体調が戻らないときに、点滴後3~4日間五苓散を飲むとよいとされています。
 
水分をしっかり摂っているのに調子が悪い場合は試してみてはいかがでしょうか?

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震災での経験を生かして

7月第一週目に西日本豪雨によって受けた被害はとても大きいものでした。
10日ほど経った今でも状況が少し動き出したばかりです。

この豪雨は広島県だけではなく、他の被災地にも大きな爪痕を残しました。
復旧に向けての戦いはまだ始まったばかりですが、
かつての経験を生かして被災者の皆さんの力になるであろう漢方薬を紹介したいと思います。

2011年3月11日に発生した東日本大震災で、帝京大外科准教授 新見正則先生が被災地に届けた漢方薬についてです。
 
気持ちが晴れない人にはまず香蘇散(こうそさん)
 今回の被災によって想像を絶するような大きな精神的ストレスを受けていると思います。
 ストレスに対処する目的で、新見先生はまず最初に香蘇散を処方するそうです。
 香蘇散は香附子(こうぶし)紫蘇(しそ)(よう)陳皮(ちんぴ)生姜(しょうきょう)(かん)(ぞう)の5つの生薬からなっており、
 味も良く飲みやすい漢方薬です。
 服用すると気持ちが晴れるのと、風邪の初期にも対応できる処方です。
 また、香蘇散が無効な方には半夏(はんげ)厚朴(こうぼく)(とう)という漢方薬を用いることもあるようです。
 
経過が長引くときは(さい)(ぼく)(とう)(さい)()加竜骨(かりゅうこつ)牡蛎(ぼれい)(とう)
 漢方では、症状が改善しない場合には、(さい)()黄芩(おうごん)を中心に組み合わせた『(さい)胡剤(こざい)』を併用することが
 あります。
 柴胡剤の中でも最も一般的なものが小胡湯で、
 これと上記で紹介した半夏厚湯を組み合わせたものが柴朴湯という処方になります。
 半夏厚朴湯では思うような効果がなく、長引くストレス症状には柴朴湯が有効となることもあると
 紹介されています。
 柴胡加竜骨牡蛎湯も柴胡剤のひとつで、ストレスに有効です。
 また、冷え症でストレスがある人には、温める生薬である乾姜(かんきょう)の含まれた、柴胡桂枝乾姜(さいこけいしかんきょう)(とう)という
 漢方薬がおすすめです。
 
夏バテの予防に清暑(せいしょ)(えっ)()(とう)
 新見先生はもう一つ、被災地に届けたかった漢方薬があったのですが、震災によるメーカーの工場ライン
 停止によって叶わなかったものがあったようです。それが、補中(ほちゅう)(えっ)()(とう)でした。
 避難所生活を余儀なくされた方々は気力・体力ともに弱っており、また身を粉にして被災地で働かれている
 人への心身のエネルギー補充に役立てたかった処方です。
 東日本の震災は冬場でしたが、この豪雨は夏場です。
 異常気象により今年は猛暑と言われております。
 夏場に対応した補中益気湯の類似処方である清暑益気湯を役立てられたら、
 皆さんの力に少しでも変わるのではないかと思います。

今回の被災では、断水、交通網の混乱などで被災地の復旧は迅速とは言えないものです。
漢方薬を飲んでいる場合ではないとも感じます。
しかし検査がなくても処方がしやすい漢方薬は、少しでも早く、多くの人の心と体のケアをできる
ものでもあると思いますので、このコラムを読まれている方・必要な方に微力ではございますが
役に立てたらと感じ、記載させて頂きます。

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頭痛と漢方薬

今回は原因のはっきりしない頭痛にもちいる漢方薬を紹介したいと思います。

天気がすぐれない、この梅雨の時期に頭痛を起こす方もいらっしゃると思いますが、
そのような場合こそ漢方薬の出番なのです!
頭痛といえど、原因が脳疾患によるものもありますので、
きちんと診察でその可能性がないことを確認したうえで治療に進んでくださいね。
 
原因がよくわからない頭痛には大まかに①緊張型頭痛、②片頭痛、③群発頭痛に分けられますが、
漢方薬で対処ができるのは①と②です。
 
①緊張型頭痛
 締め付けられるような鈍い痛み(仕事はできる)、吐き気はあるが実際に吐くことはない
 動くと痛みは軽減、体が温まると痛みが緩和させる

②片頭痛
 ずっきんずっきんといった拍動性の痛み、嘔吐を伴う、動くと痛みが悪化、女性に多い

③群発頭痛
 ある期間に集中して頭痛が起こる、目がえぐられるような耐え難い痛み、男性に多い
 
①の原因は筋肉の緊張からの血行不良、
②ははっきりとした原因はわかっていませんが脳血管が拡張していることと
神経伝達物質のひとつであるセロトニンが関与していると言われています。
 
緊張性頭痛や片頭痛にもちいる代表的な3処方を紹介します。
これら処方は「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」に掲載されています。
 
呉茱萸(ごしゅゆ)(とう):冷え症で頭痛持ちの方に
 「(しょう)寒論(かんろん)」という古典において“嘔吐を伴う頭痛に良い”ことから、西洋医学的に片頭痛と解釈されて、
 頭痛予防のほか、発作時に頓用で使われています。[呉茱萸(ごしゅゆ)]という生薬には温めて頭痛・嘔吐を改善する
 薬能があります。
 
五苓散(ごれいさん):浮腫やめまいを伴い、天気などに影響される場合に
 上のような病態を漢方医学では「水毒(すいどく)」と考えます。水毒が関与した片頭痛は多くの場合、
 悪天候の前日や決まった季節での増悪を認め、めまいを伴い重だるさも見られます。
 片頭痛の成因として、脳が浮腫を起こし脳血管が拡張することで神経を圧迫して痛みを生じるという考え
 もあり、そのような場合に水分偏在を是正する利水(りすい)(やく)の代表である五苓散を用います。
 
(かっ)(こん)(とう):肩こりを伴う場合
 肩こりに伴う緊張型頭痛には、こわばった筋肉の緊張を和らげる葛根湯が適しています。
 [(かっ)(こん)][芍薬(しゃくやく)][(かん)(ぞう)]の配合により筋肉の緊張を緩和します。ただし、[()(おう)]が入っているので、
 胃腸が弱い方や前立腺肥大などで排尿障害がある方には注意が必要です。
 
この時期に頭痛があるなら五苓散が最も適していますが、他の症状なども見て漢方を選択するのが良いです。
是非ご相談くださいね。

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誤嚥性肺炎を防止するために…

日本人の現在の死因は、1位:悪性新生物(がん)、2位:心疾患、3位:肺炎となっています。

とくに65歳以上の高齢者では、死因の1位が肺炎です。
海外では、肺炎で亡くなる年代は主に児童や乳幼児といった若年者が多いにもかかわらず、
日本では高齢者が多いことが特徴です。

その要因としては、
若い頃からの喫煙率の高さ、
風邪などで抗生剤を頻用してきたため耐性がついてしまっている、
加齢による抵抗力・免疫の低下、パーキンソン病などの脳障害をきたす疾患を抱えている、
などがあります。

また、高齢になると食べ物を正常に飲み込んだり、咳をしたりすることが難しくなってきます。
そしてこういった状態が日常的に繰り返すと誤嚥性肺炎を発症して死に至ることもあります…。
怖いですよね。

誤嚥性肺炎が発生するには次の3つの病態が考えます。

食べものに付着した細菌を誤嚥し肺炎を起こす
咽喉頭部に生息している細菌巣からの分泌物を微小誤嚥してしまい肺炎を起こす
食事後すぐに横になったために胃や腸の内容物が逆流し、それを誤嚥したために肺炎を起こす

このような誤嚥性肺炎にまず使用したい漢方薬3処方を紹介したいと思います。
 
半夏(はんげ)厚朴(こうぼく)(とう):病態①と②に有効
 症状:飲み込みが悪い、のどが詰まる、飲み込むと喀痰が出る、気分がふさぐ
 食事するときにのどが詰まったり、異物感を覚えたりするときや夜間に発熱したり、
  咳と痰をきたすことが多くなってきたときに用います。嚥下・咳反射を改善する漢方薬です。
 
(りっ)君子(くんし)(とう):病態③に有効
 症状:体力が低下している、胃の痞え感がある
 胃の内容物の逆流によって誤嚥した場合に用います。胃の機能を改善する漢方薬です。
 
大建中(だいけんちゅう)(とう):病態③に有効
 症状:体力が低下している、お腹の動きが悪い
 腸の内容物の逆流によって誤嚥した場合に用います。腸の蠕動運動を改善する漢方薬です。
 
症状改善はもちろんですが、原因対処を考えた使い方をしますので、このような症状があれば是非相談してくださいね。

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大正漢方胃腸薬の実際!

今回は病院で処方される『医療用』の漢方薬ではなく、
ドラッグストアや薬局で購入できる『OTC』の漢方薬のお話をします。

皆さんお馴染みの『大正漢方胃腸薬』についてです。
 
大正漢方胃腸薬は『安中散(あんちゅうさん)』と『芍薬甘(しゃくやくかん)(ぞう)(とう)』という2つの漢方薬が合わさって
出来たお薬ということはご存知でしょうか?
まずはそれぞれの漢方薬の特徴についてです。
 
安中散(あんちゅうさん)~冷えがあって、胃の痛みと機能低下がある場合~
 この漢方薬の適応する疾患というのは、胃炎、胃痛、月経痛、生理不順があります。
 いずれにおいても、冷えが原因で痛むといった場合に用いる処方です。
 
生薬
薬能
桂皮(けいひ)延胡索(えんごさく)(かん)(ぞう)(うい)(きょう)良姜(りょうきょう)(しゅく)(しゃ)
身体を温める
延胡索、良姜、茴香
鎮痛
縮砂、良姜
制吐
牡蛎
酸っぱい液体が口まで上がってくる吞酸を改善
 
芍薬甘(しゃくやくかん)(ぞう)(とう)~急激に起こる筋肉の痙攣を伴う疼痛によい~
 これは目にすることが多い漢方薬ではないでしょうか。
 骨格筋だけではなく平滑筋を弛緩する働きがあるので、主にこむら返り、胃痛、生理痛に使われます。
 
生薬
薬能
芍薬、甘草
痙攣収縮している筋肉を弛緩させる
 
以上のような意味合いをもつ漢方薬ですが、読まれていて気づかれた方もいらっしゃるかと思います。
ベースは痙攣を抑える作用をもつ芍薬甘草湯なのですが、
その作用を増強するために安中散を配合しているということです。

ただの胃痛などなら単剤でいいのですが、冷えによって増強するなど
痛みを更に緩和させたいので安中散を入れているのですね。

また、これは胃痛ではなく生理痛にもいいので、
もし女性の方で冷えが生理痛を増強させているようなことがあれば是非試してみてくださいね。
暖かいお湯とともに飲めば、即効性も期待できると思います。

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(アレルギー性)鼻炎に用いる4処方

だんだんと暖かくなってきたので花粉症の方はつらい時期に入ってきましたね。
昨年より新しいアレルギー性鼻炎のお薬が出てきているので服用している人も多いと思います。
新薬は副作用が従来に比べて少なく、かつ効果も高いと評判です
(それでも中には眠気を感じてしまったり、効果があまり…といった方もいらっしゃるので、
『人による』という印象ですが…)。
漢方薬は眠気を起こさずに症状緩和に役立ちます。
最近は1日1錠の服薬ということで簡便化されていますが、
やはり症状の強い人はそれだけではコントロールが難しいですよね。
漢方薬はそういった場合に併用で使うことも出来ますので、気になる方はぜひ相談してみてくださいね。


今回は鼻炎に用いる代表的な4処方について紹介したいと思います。

1.小青竜湯
 アレルギー性鼻炎のファーストチョイスとなる漢方薬です。
 体を温めることで鼻汁やくしゃみなどの症状を改善させます。
 例えば、お風呂に入ると鼻づまりが解消したりする人っていますよね。
 そういった方が小青竜湯を飲むとよく効きますし、その場合には体に少なからず「冷え」があると
 考えますので、100ccほどのぬるま湯にといて飲むと効果は覿面(てきめん)です。


2.葛根湯加川芎辛夷
 風邪の引き初めに飲むことで有名な『葛根湯』に、鼻詰まりを改善させる[川芎][辛夷]という
 生薬を追加した処方です。
 こちらも冷えが背景にある方に良いのですが、もともと蓄膿症や副鼻腔炎を患っており、
 花粉の影響で症状が増悪してしまうといった方におすすめです。
 また、風邪を引いた際鼻症状が併発した場合にもいいです。


3.荊芥連翹湯
 もともとはボコボコしたニキビなどの皮膚科疾患に用いられることが多い処方です。
 イメージとしては身体に膿をため込みやすい方です。
 炎症が慢性化してしまって傷ついた粘膜を修復させる効果があります。
 水っぽい鼻水では小青竜湯を用いますが、ねばねばした膿性の鼻水を呈していたらこちらを選択します。


4.辛夷清肺湯
 ご高齢の方は鼻粘膜に乾燥感を訴えることが多いのですがそのような場合に良い処方です。
 鼻粘膜を冷やしたり、潤いが必要と感じたらこちらをおすすめします。
 粘稠な鼻汁や鼻閉がある場合は[辛夷]という生薬も入っているので対応できます。
 
この時期は季節の変わり目でもあり身体にだるさも出てきますので、
無理をしないようご自愛してくださいね。


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フレイルサイクルと漢方薬

皆さまは、『フレイル』という言葉を聞いたことがありますか?
これは、『高齢になるにつれて、生理的予備能が低下すること』と
2014年に日本老年医学会が提唱しました。
このフレイルの状態に陥ってしまうと一歩先は“要介護”ということで、
近年注目をあびており広く社会に浸透してきています。
フレイルとは、カラダがストレスに弱くなり身体的機能や認知機能の低下がみられる状態のことで、
健康な状態と要介護状態の中間に位置します。
加齢に伴って一方的に衰えた状態である「老衰」「衰弱」などとは少しニュアンスが異なり、
治療や予防を行うことで健康な状態に戻ることができるという意味も含まれています。

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フレイルは、
『体重減少』、『疲労感』、『筋力(握力)の低下』、『歩行スピードの低下』、『身体の活動量の低下』
の5項目の診断基準のうち3項目以上が当てはまる場合に診断されます。

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食欲低下や嚥下機能の低下などで食事の摂取量が減ると低栄養に陥り、サルコペニアに至ります。
サルコペニアになると、疲労感・筋力の低下、それに伴い身体機能の低下につながり活動量が減ります。
活動量が減ることで、エネルギー消費量が減り、食欲低下につながります。
フレイルになるとこのような『フレイルサイクル』という悪循環に陥ってしまう可能性が高くなります。
 
 
 

このような状態には、漢方薬の『補剤(人参剤を含む)』を中心とした処方を用いることをおすすめします。
補剤には、消化吸収機能や意欲低下の改善に働く作用があるからです。
食欲や栄養状態の低下を改善できると、筋力や意欲の低下、抑うつ、寝たきりなどの状態を回避することが出来ます。
また、漢方薬は次のような症状に用いると高い効果を期待できます。
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フレイルに陥る原因疾患によってフレイルサイクルのスタート地点は変わります。
上記以外にも適した漢方薬はありますので、気になられた方は気軽に相談してくださいね。

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肩こりと漢方

寒い日が続くとどうしても体に力が入って肩や首が凝ったり、頭が痛くなることがあります。
そんな時に、風邪に用いるお馴染みの漢方薬が活躍します!!
 
ファーストチョイス!葛根湯
(かっ)(こん)(とう)』と聞けば、風邪の引き初めに飲む漢方薬というイメージが強いのではないでしょうか。
実際、急性期(~3日)の風邪にはとても効果の高い薬です。
しかし病期が過ぎてしまうと(4日~)効かない例も多くあります。
余った漢方薬は今後風邪を引いてしまったときに用いることも良いですが、
意外と肩こりにも使えるのです!
 
たとえば風邪の引き初めの症状はどんなものが浮かびますか?
寒気を感じて、体がこわばって、頭が痛くなったり…。
葛根湯は体を温めて抗病反応を高めることでウイルスを撃退させる漢方薬です。
(余談となりますが、汗が出るまで飲むのがベストなのです。)  
生薬の[()(おう)]と[桂皮(けいひ)]には体を温め作用があり、[葛根]には筋肉の弛緩作用があります。
体が冷えることによって凝りが生じる場合には葛根湯が良いのです。
特に首のあたりまで凝る場合には葛根湯がおすすめです。
 
また、葛根湯には非常におすすめの飲み方があります。
葛根湯には[生姜(しょうきょう)]が入っています。この生薬も体を温める作用がありますが、
ドラッグストアやスーパーなどでも売っている『しょうが湯』に溶かしてみてください。
大体、100~150ccのお湯に溶いたしょうが湯で良いと思います。
[生姜]の温める作用がパワーアップして、飲んでいるうちに体がだんだんポカポカしてきます。
そして漢方薬の独特な味が苦手ということなら、
その上からお好みの量のハチミツを混ぜて飲んでみてください。
ハチミツにはのどによい成分が含まれていますので特に風邪を引いた際にはおすすめします。
色は良くないですが、甘さが加わってとても飲みやすくなります。
 
最後に豆知識!柴胡桂枝湯と柴胡桂枝乾姜湯
これは最近知った話になります。
肩が凝ると皆さんは鎖骨の上側部分のツボを押さえませんか?
そういった場合の肩こりには(さい)()(けい)()(とう)がよく効くそうです。
そして肩甲骨を縮めたくなるような背中の凝りには柴胡桂枝乾姜(さいこけいしかんきょう)(とう)が良いそうです。
 
もしこういった凝りがあれば是非試してみてくださいね!

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(高麗)人参のはたらき

最近、健康ドリンクなどを自主的に購入されて健康に気を遣う方が増えてきました。
患者さんの中にも、『高麗(こうらい)人参(にんじん)』のドリンク剤を飲まれている方がいらっしゃいましたので、
今回は生薬の『人参(にんじん)』の話をしたいと思います。
 
人参と高麗人参は別モノ!
 高麗人参という名前から、野菜の人参と同じものだと認識されている人も多いのではないでしょうか?
 皆さんとなじみの深い人参はセリ科、高麗人参はウコギ科の植物なので全くの別物です。
 人参と高麗人参では含有成分が異なります。
 人参の主な成分はカロチン、ビタミンA、カリウム、食物繊維であり、
 高麗人参はサポニン、ビタミン、タンパク質、アミノ酸、炭水化物、ミネラルです。
 そして高麗人参には人参以上に栄養価が高いものですから高級品として扱われています。
 
高麗人参には別名がたくさん
 高麗人参は朝鮮人参(ちょうせんにんじん)雲州(うんしゅう)人参(にんじん)(こう)(じん)などとも呼ばれていますが、
 日本薬局方には「御種(おたね)人参(にんじん)」として記載されているのでこちらが正式名称となります。
 八代将軍・吉宗は朝鮮半島から入手した人参の種と苗を栽培した後、
 その種を各地大名に分け与えたことから“ありがたい・種”→『御種』と名がついたそうです。
 
高麗人参のもつ効果
 このような生薬の人参には次のような作用効果があります。
 1.補()()作用: 「気」を産生する胃腸系を強め、身体全体の強壮をはかります。
              例えば、下痢を止める、消化を促進、体力をつける、呼吸機能を高める、など。 
 2.生津(せいしん)作用:  熱などによって減少した体の体液(津液)を補い、口渇を止めます。
 
 
人参を含む漢方薬
 人参の滋養強壮作用を目的としている漢方薬にはほとんどの場合、『黄耆』という生薬も
 セットで含まれています。
 なぜなら黄耆は人参のもつ作用を高めるからです。
 例えば、補中(ほちゅう)(えっ)()(とう)十全(じゅうぜん)大補(たいほ)(とう)人参(にんじん)(よう)(えい)(とう)加味帰脾(かみきひ)(とう)などがこれらを含んでいます。
 この冬の時期では、風邪などの疾患で咳や倦怠感の症状がある場合に、
 鎮咳作用のある五味子(ごみし)を含んだ人参養栄湯がより適しています。
 このように、人参以外の生薬の組み合わせによっても適した処方が変わることがあります。
 気になられたら是非ご相談くださいね。

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咳と漢方

広島県では今、咳だけの風邪が流行っているようです。
今回は咳の病態と漢方治療について紹介します。
 
咳嗽は、気道内に侵入した(吸い込まれた)異物や貯留した分泌物を
外に排除しようとする生体の防衛反応です。
過剰な咳は止めなければいけませんが、高齢者などは誤嚥を防ぐためにも咳反射は必要になります。
使用頻度の高いのは中枢性鎮咳薬ですが、安易に用いると必要な咳をも抑制してしまうことがあります。
咳の病態は原因を見極めてそれに応じた治療が必要になってきます。
咳嗽は湿性咳嗽や乾性咳嗽といった、喀痰の有無によって分類されます。
湿性咳嗽
咳嗽のたびに喀痰を伴う
乾性咳嗽
喀痰を伴わないか、少量の粘液性喀痰のみを伴う

漢方治療は①炎症の有無、②乾性か湿性か、③喀痰は水様性か、粘稠性か、あるいは膿性か 
などを鑑別のポイントとして処方を決定します。

今回は湿性咳嗽、乾性咳嗽でファーストチョイスとされている漢方薬を紹介します。
 
①  湿性咳嗽 ~小青(しょうせい)(りゅう)(とう)
 漢方医学では、『湿』という病態は痰を伴う咳はもちろん、鼻汁、『水』による冷えなども含みます。
 このような場合、温めると改善することがあるので小青竜湯を用います。
 イメージとしては、お風呂に入ると症状が軽快する人には高い効果が得られます。
麻黄、桂皮、細辛、乾姜、五味子
温めながら余分な『水』を除き、鎮咳去痰する。
半夏
去痰作用により、水様性喀痰などを改善する。


②  乾性咳嗽 ~麦門(ばくもん)(どう)(とう)
 『乾』という病態は、気道を潤す『水(=陰)』が不足し、気道過敏や弱い炎症が発症していると考えます。
 そういった場合には『陰』を補う麦門冬湯を用います。
 感冒罹患後の咳だけが残る症状などが空咳、いわゆる乾性咳嗽です。
麦門冬、粳米、人参、甘草
気道を潤して乾性咳嗽を抑える
半夏
鎮咳・去痰作用により、気道にこびりついた痰を取り除いて鎮咳する。
 
今回は紹介しませんでしたが、炎症の強弱、喀痰の性状を見て処方を選択することがありますので、
気になられた方はぜひ相談してみてくださいね。

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