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介護現場
4月には介護保険改定があり、特に通所事業は大変厳しい状況になります。
これまでに何度もケアビレッジたつきのことを取り上げてきましたが、開設して1年が過ぎ今からと言う時にとても厳しい状況です。
そんな中で試算をし削れるところは削り、第3者にもさまざまな協力を得て理念に基づいた施設の構築を目指して取り組んでいます。
その一つとして私も初めて施設に泊まりました。したことのないことを積極的に取り組むことは好きな方ですから往診だけでなく、これからもしばしばケアビレッジたつきに顔を出していこうと思っています。
そうした中で様々な発見や気付きがあります。ハード面などの問題も気付くことがあります。
職員が器用に作った作品、私には小さいマッサージチェアー、いたる所に貼られている利用者さんや職員の笑顔の写真、煩雑なデスクの上、朝になると不穏になる入居者さん、7時前から出てくる早番の職員、遅くまで夕食が取れず暗い中で夜食を食べる職員、暖房が利きにくい休憩室、なぜか勤務でないのに止まっている職員の車、映し出されるモニターの画像、夜勤の大変さとゆとりのギャップ、朝のバタバタなどなど…
そんな中で私服の私を見て多くの入居者さんが私を誰か判ってもらったことは嬉しかったです。
なかなか日中は往診以外で行けませんが、つばきが開設して5年目、たつきも2年目、いつかは風呂に入ってやろうと思っていましたが、未だ実現したことがありません。
職員には不安を与えながらも、希望を持って取り組んでくれている現場を感じることが出来ています。
理想を現実にするために自分のできることを前向きに、積極的に取り組みたいと思います。そして今年の忘年会では明るい未来とより良い施設づくりに希望を膨らませた職員たちと共に忘年会で未来、夢を語り合えればと願っています。
そのためにも今日一日を大切に生きて行きたいと思います。
日記みたいな文章になりましたが、職員に何か伝わればと思います。
私も皆もそれぞれを見守り助け合っていければと思います。
速効性のある漢方薬
漢方薬は長く飲まないと効かないと思っていませんか?そんなことはありません。
急性疾患に対してはすぐに効いてくれます。
風邪には葛根湯、インフルエンザには麻黄湯、花粉症には小青竜湯、特にこどもの急性胃腸炎(嘔吐・下痢)には五苓散、足がつった時の芍薬甘草湯など、飲んですぐに(5分~15分で)効いてきます。
1976年に現在の漢方エキス製剤が薬価に収載されてから、当時は慢性疾患に対して多く用いられてきました。西洋薬でなかなか良くならない、難治性の病気に対して使われることが多かったのです。漢方医学教育がなかった当時としては仕方なかったのかもしれません。大学で漢方医学教育が始まったのは2001年以降です。世界最古の医学書と言われる傷寒論は急性熱性疾患を対象にしています。飲んですぐ効かないとだめなんですね。
風邪やインフルエンザに効く漢方薬は、生体防御反応を促進するような薬です。ウィルスに罹患すると、それを排除しようと生体防御反応が働き出します。温熱産生スイッチがオンになり、熱に弱いウィルスを排除しようと体温を上昇させようと仕向けます。インターフェロンが出てきて、インターロイキン1αといったサイトカインと呼ばれる免疫物質が出てきます。その過剰な産生を抑えるのが外来ウィルスに対する漢方薬の作用だということが解ってきました。
芍薬甘草湯の効き方は未だよく解っていません。全ての漢方薬の中で2番目に多く使われているものです。名前の通り、芍薬と甘草の二味からなる最もシンプルな漢方薬です。それなのにまだよく解っていないのです。これまで芍薬のペオニフロリンと甘草のグリチルリチンがともに配糖体で、腸内細菌によって糖鎖が取れて有効成分が吸収されると考えられています。だから腸内細菌叢の状態によって効き方にも個人差があると考えられています。でもおそらく口腔粘膜からはもっと速やかに吸収され効果を発揮するのだと思います。口腔粘膜からだけではありません。五苓散は子供では注腸したり、独自に座薬を作製し使われているところもあります。おそらく粘膜から速やかに吸収され効果を発揮するんだと思います。
本来、急性疾患に対しては、1日3回毎食前というのはナンセンスなのです。頓服的に使われてきたのが実際です。但し保険上の問題、副作用の問題もあります。風邪には3-4時間おきに汗をかくまで。足がつったら即座に、夜中に足がつる人は寝る前に飲むのが効果的なのですが・・・
出稽古
先日再び安浦支所の隣の武道場へ行きました。
川尻中学校の体育館が卒業式で使えないため安浦一心館に出稽古に子供たちが行きました。
私も診療が終わりすぐに出てちょうど練習開始に間に合いましたが、行ってみると県内最大の大会で3連覇した黒瀬道場も来ていました。
子供だけで総勢50人は超える大勢の剣士が集まりました。
安浦がどんどん身近な場所になりつつあります。
安浦の事業を少しでも早く軌道に乗せ、微力ながら安浦の活性化と地域協力が出来るよう組織を成熟させられればと思います。
しかし人を雇い、 共に育っていくことは極めて難しい事だと感じます。
一緒に頑張ってくれた仲間と共に、理念に沿った理想の施設を作り上げ達成感を感じられる日が来ることを願っております。
『抑肝散(よくかんさん)』という漢方薬
日本で一番使われている漢方薬は大建中湯だと書きました。二番目は芍薬甘草湯です。そして三番目にくるのが抑肝散です。
抑肝散はもともと「保嬰撮要」(1556年(明の時代)全20巻からなる小児科専門書)という古医書を起源とする漢方薬です。
こどもの夜泣き、疳の虫に対して使われていた薬です。
それが今では、認知症の薬として頻用されているのです。きっかけは2005年に東北大学から認知症の周辺症状(認知機能以外の症状で、不安、不眠、抑うつ、興奮、徘徊、妄想など)に対して有効だとする論文が報告されてからです。
その後、多くの追随する臨床研究が行われ、周辺症状の特に、妄想、幻覚、興奮、攻撃性に対しては明らかに有用な薬剤だと認められてきました。介護の側からすれば周辺症状が強いほど負担は増大するわけですから使われるのも当然かもしれません。
江戸時代、目黒道琢(1739~1798)は『餐英館療治雑話』にて、抑肝散は~「怒つよく、性急なる等の児、皆肝血不足の証なり。この方久しく服すべし。」と書いています。
また和田東郭(1744~1803)は『蕉窓方意解』で、抑肝散は~「多怒、不眠、性急の症などはなはだしきを主症とするなり。」と書いています。
さらに江戸時代から明治にかけて活躍した浅田宗伯(1815~1894)は『勿誤薬室方函口訣』では、「半身不遂并びに不寐の証に此の方を用ゆるは・・・・怒気はなしやと問うべし」と記載しています。
ここで共通して認められることは、「怒」という言葉です。つまり、抑肝散は、イライラ、カリカリ感が背景にある方に使うとよいということです。
ちなみに浅田宗伯とはあの「浅田飴」を作った人物です。
抑肝散に似た処方で抑肝散加陳皮半夏というものがあります。この出典は「本朝経験方」となっています。これは創始者がはっきりしないのですが、日本で創られた漢方薬ということです。五臓でいう肝は怒りを支配すると考えられています。ちょっと難しいのですが、五臓論では、相克の関係として、肝が傷めば、脾が傷むとされています。つまり肝が傷む(疳の高ぶる)結果、脾が傷む(消化器症状が出てくる)と考えられて創られた処方が抑肝散加陳皮半夏ということです。認知症が進んで食欲がなくなってきたり、消化器症状を伴うような方に適した処方です。保険適応薬にあるのですから、こうした方もそれなりに多いのかもしれません。
日本で一番売れている漢方薬
「大建中湯」という漢方薬があります。今、日本で一番使われている漢方薬です。
構成はニンジン(人参)、サンショ(山椒)、ショウガ(乾姜=生姜を蒸して乾燥させたもので温める作用がより強力になる)で非常にシンプルな漢方薬です。
但し、これにコウイ(膠飴)と呼ばれる飴が10g入りますので量が多くなります。通常の漢方薬の倍量の1回2包、1日6包となります。1日量15g中10gは飴ということです。
大建中湯が最もよく使われている所は外科です。
開腹術をすると、どうしても腸管が癒着しやすくなります。これを大建中湯は防ぐ作用があるのです。
具体的には、腸管の動きを良くする、お腹を温める(腸管の血流を改善する)、炎症を抑えるなどといった作用を持っています。
内科的には便通異常にもよく使われます。便秘には一般的に大黄の主成分から抽出されたセンノシドを加工したものが良く使われます。刺激性下剤に分類されるものです。
便秘でない方も胃透視検査(バリウム検査)の後に飲まれたことがある方も多いのではないでしょうか?確かに効きますが、慢性の便秘の方では、これを常用すると次第に効きが悪くなってきます。これを耐性と言います。こうした難治性の便秘に対して大建中湯は有効な方も多くいらっしゃいます。
また、腹診(漢方的な診察でお腹を触って診察すること)で、お臍周りに冷えのある方では、便秘でも下痢でも効果があります。
似た名前の漢方薬で小建中湯というのがあります。飴が入っている点は同じですが、その構成は桂皮、芍薬、大棗、甘草、生姜と全く違います。
小建中湯が一番多く使われるのは小児科です。よくお腹を痛がる虚弱なこどもの漢方薬です。名前は似て非なるものなので、合せて中建中湯として使われている先生もいらっしゃいます。
今、大建中湯は、術後のイレウスやクローン病を対象に米国でも臨床試験が行われています。米国ではサプリメントは盛んですが、今まで漢方薬は医薬品としては認められていませんでした。
でも、これまでの純粋な化合物に対し、多彩な作用を持つ複合物に対する期待も高まっています。漢方薬はまだまだ解らないことだらけです。生薬一つをとっても多くの成分が抽出されます。それを複数組み合わせているわけですから尚更複雑です。もっと漢方薬が役に立つように、今後の研究に期待するところです。