漢方の口訣(くけつ)

幕末から江戸時代にかけての名医、浅田宗(あさだそう)(はく)(1815~1894)は幕府の奥医師を務めたのち明治天皇の侍医を務めていますが、たいへん多くの著書も残しています。
その中でも、「老医口訣(ろういくけつ)」や「勿語薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)」など口訣(くけつ)に関するものもたくさんあります。
口訣とは、臨床経験を多数重ねた先達が証の中核について言い当てた言葉であって、師匠から弟子たちに伝えられてきた奥義のようなものです。
漢方の研修施設でもある、福岡県の飯塚病院漢方診療科から発行されている「使ってみよう、こんな時に漢方薬」という書籍にも「飯塚病院に伝わる50の口訣」として紹介が載っています。そこには、「冷え」という病態を重視した言葉がよく出てきます。「慢性疾患で長患いしている患者さんには冷えがある」、「難治性のアトピー性皮膚炎には冷え(寒)が隠れていることがある」といった感じです。
冷えに対する代表的な生薬は、附子と乾姜です。これらが入っていれば、おおよそ体を温める漢方薬と考えてもいいでしょう。附子はバーナーで燃やすように激しく温めます。ショック状態などにも使用されることから,衰弱した生体機能を賦活させるような薬です。一方、乾姜はトロトロと弱火で温めるようなイメージです。消化管や肺を中心に温めながら元気をつけていく作用があります。
全身を温める代表は茯苓四(ぶくりょうし)逆湯(ぎゃくとう)、エキス剤では(しん)()(とう)人参(にんじん)(とう)を合わせて使います。これには附子と乾姜の両方が入ってきます。腰の冷えには苓姜朮甘(りょうきょうじゅつかん)(とう)、下肢の冷えには八味地(はちみじ)黄丸(おうがん)牛車(ごしゃ)(じん)()(がん)、指先の冷えには当帰四逆加呉茱萸(とうきしぎゃくかごしゅゆ)生姜(しょうきょう)(とう)などが温める代表的な漢方薬です。整形外科的な慢性の痛み、腰痛や下肢痛、しびれ、末梢循環障害などにもこれらがよく応用されます。また、附子は単独で、ブシ末(調剤用)という形で製品化されていて、これらエキス剤に加えて使われたりもしています。
さて口訣は、さながら現代の医学書で「今日の治療指針」にあたるようなところもありますが、それをより詳細に述べたところもあります。
でも100年ちょっと前の「勿語薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)」にしても現代用語からすると読解が難しい部分もあります。それは現代医学の著しい進歩もあれば、病気の多様化、高齢化といった環境の変化が、昔の口訣だけでは追いつかないところもあるからだと思います。古典的な口訣を大事にしつつも、現代の新たな口訣が求められるところです。

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新年度のはじまりです!

 花見、入学式シーズンですが雨がよく降ります。今年は弁当持って花見に出かけられ桜の下でお酒を酌み交わす風景が少ないように思います。
 さて、多くの方々が新体制で新年度を迎えられたのではないでしょうか!?部長が変わった、担任が変わった、制度が変わったなど様々な環境の変化があった方が多いのではないかと思います。
 そうした状況の中で良い緊張感を持って心機一転され、社会のために、会社のために、家族のために、自分のために取り組まれることはとても良い事ですが、逆に変化は不安や誤解を生むこともしばしばあります。
 この不安や誤解がなぜ生じるのか、それは結局、コミュニケーション不足が原因かと思います。会社や上司と普段からコミュニケーションが取れていれば、ある程度会社はスムーズに業務が進むものだと思っています。飲みニケーションを理解できない方も多いですがとても大事な方法だと私は思っています。
 そして会議は、より大切な意思疎通、方向性の確認、最も重要なコミュニケーションの場であると感じます。
 しかしそういった意味の大きい会議にするにはとても様々な工夫が必要であることも事実です。
 春から役職に就き、会議に出るようになった方もいるでしょう。会議には様々な準備が必要でとても普段の現場を抱えながら準備することは容易ではないと思います。
そんな新たな環境の中でストレスを溜め心病んでいくのが、最近はあまり聞きませんが「5月病」です。
 厳しい上司、細かい上司、会社だけでなく家庭や様々な会でストレスを感じられている方もいると思いますが、ちょうど良いのがちょうど良い・・・肩ひじを張らず、変なプライドや立場に捉われず、ありのままの姿で自分らしく進んでいかれればと思います。
 sakuranoki

 

 

 












追伸:カープ始まったばかりです!頑張れ!

			

介護現場

  4月には介護保険改定があり、特に通所事業は大変厳しい状況になります。
 これまでに何度もケアビレッジたつきのことを取り上げてきましたが、開設して1年が過ぎ今からと言う時にとても厳しい状況です。
 そんな中で試算をし削れるところは削り、第3者にもさまざまな協力を得て理念に基づいた施設の構築を目指して取り組んでいます。
 その一つとして私も初めて施設に泊まりました。したことのないことを積極的に取り組むことは好きな方ですから往診だけでなく、これからもしばしばケアビレッジたつきに顔を出していこうと思っています。
 そうした中で様々な発見や気付きがあります。ハード面などの問題も気付くことがあります。
 職員が器用に作った作品、私には小さいマッサージチェアー、いたる所に貼られている利用者さんや職員の笑顔の写真、煩雑なデスクの上、朝になると不穏になる入居者さん、7時前から出てくる早番の職員、遅くまで夕食が取れず暗い中で夜食を食べる職員、暖房が利きにくい休憩室、なぜか勤務でないのに止まっている職員の車、映し出されるモニターの画像、夜勤の大変さとゆとりのギャップ、朝のバタバタなどなど…

 そんな中で私服の私を見て多くの入居者さんが私を誰か判ってもらったことは嬉しかったです。
 なかなか日中は往診以外で行けませんが、つばきが開設して5年目、たつきも2年目、いつかは風呂に入ってやろうと思っていましたが、未だ実現したことがありません。
 職員には不安を与えながらも、希望を持って取り組んでくれている現場を感じることが出来ています。
 理想を現実にするために自分のできることを前向きに、積極的に取り組みたいと思います。そして今年の忘年会では明るい未来とより良い施設づくりに希望を膨らませた職員たちと共に忘年会で未来、夢を語り合えればと願っています。
 そのためにも今日一日を大切に生きて行きたいと思います。
 日記みたいな文章になりましたが、職員に何か伝わればと思います。
 私も皆もそれぞれを見守り助け合っていければと思います。

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速効性のある漢方薬

 

漢方薬は長く飲まないと効かないと思っていませんか?そんなことはありません。
急性疾患に対してはすぐに効いてくれます。

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風邪には(かっ)(こん)(とう)、インフルエンザには()黄湯(おうとう)、花粉症には小青(しょうせい)(りゅう)(とう)、特にこどもの急性胃腸炎(嘔吐・下痢)には五苓散(ごれいさん)、足がつった時の芍薬甘(しゃくやくかん)(ぞう)(とう)など、飲んですぐに(5分~15分で)効いてきます。
1976年に現在の漢方エキス製剤が薬価に収載されてから、当時は慢性疾患に対して多く用いられてきました。西洋薬でなかなか良くならない、難治性の病気に対して使われることが多かったのです。漢方医学教育がなかった当時としては仕方なかったのかもしれません。大学で漢方医学教育が始まったのは2001年以降です。世界最古の医学書と言われる(しょう)寒論(かんろん)は急性熱性疾患を対象にしています。飲んですぐ効かないとだめなんですね。
風邪やインフルエンザに効く漢方薬は、生体防御反応を促進するような薬です。ウィルスに罹患すると、それを排除しようと生体防御反応が働き出します。温熱産生スイッチがオンになり、熱に弱いウィルスを排除しようと体温を上昇させようと仕向けます。インターフェロンが出てきて、インターロイキン1αといったサイトカインと呼ばれる免疫物質が出てきます。その過剰な産生を抑えるのが外来ウィルスに対する漢方薬の作用だということが解ってきました。
芍薬甘草湯の効き方は未だよく解っていません。全ての漢方薬の中で2番目に多く使われているものです。名前の通り、芍薬と甘草の二味からなる最もシンプルな漢方薬です。それなのにまだよく解っていないのです。これまで芍薬のペオニフロリンと甘草のグリチルリチンがともに配糖体で、腸内細菌によって糖鎖が取れて有効成分が吸収されると考えられています。だから腸内細菌叢の状態によって効き方にも個人差があると考えられています。でもおそらく口腔粘膜からはもっと速やかに吸収され効果を発揮するのだと思います。口腔粘膜からだけではありません。五苓散は子供では注腸したり、独自に座薬を作製し使われているところもあります。おそらく粘膜から速やかに吸収され効果を発揮するんだと思います。
本来、急性疾患に対しては、1日3回毎食前というのはナンセンスなのです。頓服的に使われてきたのが実際です。但し保険上の問題、副作用の問題もあります。風邪には3-4時間おきに汗をかくまで。足がつったら即座に、夜中に足がつる人は寝る前に飲むのが効果的なのですが・・・

出稽古

先日再び安浦支所の隣の武道場へ行きました。
川尻中学校の体育館が卒業式で使えないため安浦一心館に出稽古に子供たちが行きました。
私も診療が終わりすぐに出てちょうど練習開始に間に合いましたが、行ってみると県内最大の大会で3連覇した黒瀬道場も来ていました。
子供だけで総勢50人は超える大勢の剣士が集まりました。
安浦がどんどん身近な場所になりつつあります。
安浦の事業を少しでも早く軌道に乗せ、微力ながら安浦の活性化と地域協力が出来るよう組織を成熟させられればと思います。
しかし人を雇い、 共に育っていくことは極めて難しい事だと感じます。
一緒に頑張ってくれた仲間と共に、理念に沿った理想の施設を作り上げ達成感を感じられる日が来ることを願っております。
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『抑肝散(よくかんさん)』という漢方薬

日本で一番使われている漢方薬は大建中(だいけんちゅう)(とう)だと書きました。二番目は芍薬甘(しゃくやくかん)(ぞう)(とう)です。そして三番目にくるのが(よく)肝散(かんさん)です。
(よく)肝散(かんさん)はもともと「保嬰撮(ほえいさつ)(よう)」(1556年(明の時代)全20巻からなる小児科専門書)という古医書を起源とする漢方薬です。
こどもの夜泣き、疳の虫に対して使われていた薬です。
それが今では、認知症の薬として頻用されているのです。きっかけは2005年に東北大学から認知症の周辺症状(認知機能以外の症状で、不安、不眠、抑うつ、興奮、徘徊、妄想など)に対して有効だとする論文が報告されてからです。
その後、多くの追随する臨床研究が行われ、周辺症状の特に、妄想、幻覚、興奮、攻撃性に対しては明らかに有用な薬剤だと認められてきました。介護の側からすれば周辺症状が強いほど負担は増大するわけですから使われるのも当然かもしれません。
江戸時代、目黒(めぐろ)(どう)(たく)(1739~1798)は『(さん)英館(えいかん)療治(りょうじ)雑話(ざつわ)』にて、抑肝散は~「怒つよく、性急なる等の児、皆肝血不足の証なり。この方久しく服すべし。」と書いています。
また和田(わだ)東郭(とうかく)(1744~1803)は『(しょう)窓方(そうほう)()(かい)』で、抑肝散は~「多怒、不眠、性急の症などはなはだしきを主症とするなり。」と書いています。
さらに江戸時代から明治にかけて活躍した浅田宗(あさだそう)(はく)(1815~1894)は『勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)』では、「半身不遂并びに不寐の証に此の方を用ゆるは・・・・怒気はなしやと問うべし」と記載しています。
ここで共通して認められることは、「怒」という言葉です。つまり、抑肝散は、イライラ、カリカリ感が背景にある方に使うとよいということです。
ちなみに浅田宗(あさだそう)(はく)とはあの「浅田飴」を作った人物です。
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抑肝散に似た処方で(よく)肝散(かんさん)加陳皮半(かちんぴはん)()というものがあります。この出典は「本朝(ほんちょう)経験方(けいけんほう)」となっています。これは創始者がはっきりしないのですが、日本で創られた漢方薬ということです。五臓でいう肝は怒りを支配すると考えられています。ちょっと難しいのですが、五臓論では、相克の関係として、肝が傷めば、脾が傷むとされています。つまり肝が傷む(疳の高ぶる)結果、脾が傷む(消化器症状が出てくる)と考えられて創られた処方が抑肝散加陳皮半夏ということです。認知症が進んで食欲がなくなってきたり、消化器症状を伴うような方に適した処方です。保険適応薬にあるのですから、こうした方もそれなりに多いのかもしれません。

日本で一番売れている漢方薬

大建中(だいけんちゅう)(とう)という漢方薬があります。今、日本で一番使われている漢方薬です。

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構成はニンジン(人参)、サンショ(山椒)、ショウガ(乾姜(かんきょう)生姜(しょうきょう)を蒸して乾燥させたもので温める作用がより強力になる)で非常にシンプルな漢方薬です。

但し、これにコウイ(膠飴)と呼ばれる飴が10g入りますので量が多くなります。通常の漢方薬の倍量の1回2包、1日6包となります。1日量15g中10gは飴ということです。
大建中湯が最もよく使われている所は外科です。
開腹術をすると、どうしても腸管が癒着しやすくなります。これを大建中湯は防ぐ作用があるのです。

具体的には、腸管の動きを良くする、お腹を温める(腸管の血流を改善する)、炎症を抑えるなどといった作用を持っています。
内科的には便通異常にもよく使われます。便秘には一般的に大黄(だいおう)の主成分から抽出されたセンノシドを加工したものが良く使われます。刺激性下剤に分類されるものです。

便秘でない方も胃透視検査(バリウム検査)の後に飲まれたことがある方も多いのではないでしょうか?確かに効きますが、慢性の便秘の方では、これを常用すると次第に効きが悪くなってきます。これを耐性と言います。こうした難治性の便秘に対して大建中湯は有効な方も多くいらっしゃいます。
また、腹診(漢方的な診察でお腹を触って診察すること)で、お臍周りに冷えのある方では、便秘でも下痢でも効果があります。
似た名前の漢方薬で小建中(しょうけんちゅう)(とう)というのがあります。飴が入っている点は同じですが、その構成は桂皮(けいひ)(シャク)(やく)大棗(たいそう)(かん)(ぞう)生姜(しょうきょう)と全く違います。

小建中湯が一番多く使われるのは小児科です。よくお腹を痛がる虚弱なこどもの漢方薬です。名前は似て非なるものなので、合せて中建中湯として使われている先生もいらっしゃいます。
今、大建中湯は、術後のイレウスやクローン病を対象に米国でも臨床試験が行われています。米国ではサプリメントは盛んですが、今まで漢方薬は医薬品としては認められていませんでした。

でも、これまでの純粋な化合物に対し、多彩な作用を持つ複合物に対する期待も高まっています。漢方薬はまだまだ解らないことだらけです。生薬一つをとっても多くの成分が抽出されます。それを複数組み合わせているわけですから尚更複雑です。もっと漢方薬が役に立つように、今後の研究に期待するところです。

平成27年 年頭のご挨拶

新年明けましておめでとうございます。
たつき新聞では新年のご挨拶を申し上げておりますが、あらためてブログでも新年のご挨拶をさせていただきます。
「ケアビレッジたつき」を設立し、ある意味当法人は年中無休となりました。
既存の医院とデイサービスセンターつばき、そしてケアビレッジたつきのデイサービスセンターすみれの外来通所部門は1月5日より始業しております。
例年の如く、正月の間は処置や注射の方で数日外来を開け対応し、施設の往診などもあり正月が終わりました。
父を継承し医院へ帰ってきたころから、私は総合病院の研修や非常勤医師として現在も勤務しているため他院ほど外来枠を設けておりません。
最近では午前外来、午後往診、早朝や夜間診療なども特に都心では見受けられますが、当院も徐々に変化をしてまいりました。
昨年春より小林先生が水曜日に勤務していただくようになり、往診や医師会活動に時間を取れるようになりました。
また昔から伊藤先生が木曜日午後診療しに来て下さるので、分担し、時にはどちらかが緊急検査や往診対応をすることも可能です。
現在、火曜日午後を往診日とし川尻・安浦の在宅患者さん、そしてケアビレッジたつきを回っています。
安芸津風早の施設には水曜日午前中に往診に行かせていただいています。
その他、月曜日金曜日などにも在宅患者さんのお宅に定期的に往診をしています。
国が推し進める入院から在宅医療へのシフトは今後増加する見通しですし、医院(医師)としてはフットワークを軽くしないと地域のニーズに応えられないものと感じています。
今後の地域医療に大きな弊害となるのはマンパワー不足、医師や看護師、介護士など様々な職種において職員の確保は大きな課題となります。
地域包括は、川尻・安浦がひとくくりになっていますが、審査会や保健・学校活動など町毎に行われているのが現状です。
私はかねてから医師会など事あるごとに高齢者増加よりも就労人口の減少が大きな課題であることを言ってきました。
これを根本的に解消する方法はありませんが、少しでも解消する方法として考えられることは各組織の連携、外国人の導入を推し進めるしかないと思っています。
まずは、この地域で言えば川尻安浦が強く連携すること、近年分裂する組織が多い中で合併をしていくことも重要と考えています。
また一つひとつの業務のスリム化、これまでにも対策されてきていますが、介護保険更新の期間延長、利用見込みの無い介護保険申請の自粛、各種書類の統一化など考えればいろいろあります。
当法人内でもその取り組みをしていくことは当然ですが、法人内にこだわらず広い視点、大きな器で地域に貢献できる姿勢が大事だと思います。
その気持ちを忘れることなく今年も一年取り組みたいと思っていますが、口で言うほどたやすいものはありません。
現実、昨年は想定以上に施設の運営や体制構築に苦労しました。今年立てなおさなければこのような理想は述べておれません。
職員一人ひとりの創意工夫、団結力がなければ成し得ない現実だと思います。
この形を今年作り上げることが当法人の進む道です。それが当法人の理念です。
忘年会でも新年互礼会でも全職員に伝えました。
この形を成し得なければ、この法人は終わる覚悟を持って理事長として取り組むので協力をお願いしたいと・・・
地域の皆様、関係各所の皆様におかれましては今年一年、温かくもあり厳しい目で法人を育てていただければと存じます。
今年一年どうぞよろしくお願いします。
医療法人社団たつき会 菅田医院
菅田 宗樹