頭痛と漢方

朝夕めっきり涼しくなってきました。季節の変わり目を実感できる今日この頃ですが、1年後にはまた消費税が上がるのでしょうか、頭の痛い話です。

さて頭痛にも色々な頭痛があります。日本頭痛学会が紹介している国際頭痛分類では大きい分類として、一次性、二次性、その他と分けています。細かな分類ではその中で更に14種のタイプに分けているのですが、一般的に頭痛として馴染みがあるのは一次性のもので、片頭痛、緊張型頭痛ではないでしょうか。

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日本頭痛学会が作成している慢性頭痛の診療ガイドラインでは、5種類の漢方薬が掲載されています。でもそれら漢方薬のできた時代には当然、そうした分類はありません。自他覚的な症状によって分類されます。


1.呉茱萸(ごしゅゆ)(とう) (31): 頭痛がひどく嘔吐する。手足が冷える。

2.(けい)()人参(にんじん)(とう)(82) : 冷え性で胃腸虚弱。心窩部の圧痛。のぼせ。

3.(ちょう)藤散(とうさん)(47) : イライラ。高血圧気味。

4.(かつ)(こん)(とう)(1) : 後頭部・首・肩にかけての凝り。

5.五苓散(ごれいさん)(17) : 雨降り前の頭痛。


漢方の診断の第一歩は、冷えがあるかないかです。つまり、熱(暑さ)により増悪するのか、冷え(寒冷)によって増悪するのかです。

冷やす薬を清熱剤と称します。石膏(せっこう)黄連(おうれん)黄(おうごん)黄柏(おうばく)などが入った漢方薬が該当します。処方名では、(ちょう)藤散(とうさん)黄連(おうれん)解毒(げどく)(とう)などです。

逆に温めて冷えを改善する生薬には、乾姜(かんきょう)附子(ぶし)呉茱萸(ごしゅゆ)山椒(さんしょう)などがあります。頭痛に使う漢方薬としては、呉茱萸(ごしゅゆ)(とう)(けい)()人参(にんじん)(とう)(かつ)(こん)(とう)などです。

次のステップとして、()(けつ)(すい)の概念です。

1. ()(きょ)(胃腸が弱い)~(けい)()人参(にんじん)(とう)半夏白朮天(はんげびゃくじゅつてん)()(とう)

2. 気うつ・気逆(イライラ感や抑うつ感)~(ちょう)藤散(とうさん)黄連(おうれん)解毒(げどく)(とう)加味逍(かみしょう)遙散(ようさん)

3. 血虚(貧血、生理不順)~当帰(とうき)(しゃく)薬散(やくさん)

4. 瘀血(末梢循環不全)~桂枝茯苓(けいしぶくりょう)(がん)桃核承(とうかくじょう)()(とう)

5. 水毒(浮腫、水分代謝異常)~五苓散(ごれいさん)当帰(とうき)(しゃく)薬散(やくさん)

 この他にも鎮痛剤のように頓服でも使われる川芎(せんきゅう)茶調散(ちゃちょうさん)などもあります。代表的なものだけを書きましたが、このように多くの漢方薬が頭痛に用いられます。いずれにしても、冷えのあるなし、胃腸の強弱が処方決定の基本となります。

テレビに出る漢方薬

7月29日夜7時からテレビで「林修の今でしょ!講座」で帝京大学の新見正則先生が講師で

「漢方薬って本当に効果があるの?講座」ってやっていました。  089041

内容は

1.夏かぜ、2.肩こり、3.腰痛、4.うつ病、5.認知症、6.がん、7.肥満

に対するものでした。

 1.夏かぜに対しては、葛根湯、眠くならないのがメリット!

 2.肩こりには、急性期には葛根湯もいいが、長引いたら肩甲骨が固まってくるので動かすことが一番、

水泳がいいですよ。

 3.腰痛の急性期には勺薬甘草湯、慢性期のものには()(けい)(かっ)(けつ)(とう)

 4.うつ病には漢方はサポート程度で、うつ病もどきに加味帰脾(かみきひ)(とう)人参(にんじん)黄耆(おうぎ)の組み合わせが、気力、

体力も落ち込んだ状態を回復させてくれる。

 5.認知症に効く薬は、残念ながらまだ西洋薬、漢方薬にもありません。ただ漢方では興奮を抑えるのに  

(よく)肝散(かんさん)が注目されています。

 6.がんに効く漢方薬はありません。ただ、精神的疲労や抗がん剤の副作用を和らげるのに補中(ほちゅう)(えっ)()(とう)

役に立ちます。これも人参(にんじん)黄耆(おうぎ)の組み合わせが入っているので気力・体力を回復させてくれますから、

手術前や手術後に役に立ちます。

 7.肥満には、防風通(ぼうふうつう)聖散(しょうさん)が有名ですが、基本はイン・アウトの問題。取るカロリーと消費するカロリー

のバランスなので食事、運動療法が基本です。

といった内容でした。

さて、かぜに対する漢方薬は保険適応のものだけでも14種類もあります。また、腰痛の効能を持った漢方薬も8種類もあります。漢方薬は異病(いびょう)同治(どうち)(異なる病気でも同じ治療薬が用いられることがある)や同病(どうびょう)異治(いぢ)(同じ病気でも人によって使う薬が違う)が当たり前です。それは漢方薬が本来、生体の持っている自然治癒力を補うように作られたものが多いからです。病名は同じ風邪でも、ウィルスを撃退しようとする反応は人様々です。その風邪に対する代表が葛根湯であり、人によっては、()黄湯(おうとう)(けい)()(とう)麻黄附(まおうぶ)子細(しさい)(しん)(とう)などが使われることもあります。急性の腰痛に対する筋肉の緊張や痛みには、概ね芍薬甘草湯でいいでしょう。

うつ病や認知症、がんに対する効能を持った漢方薬は実はありません。ただ、その病気の症状によっては漢方薬が適応となることもあります。

人参・黄耆の入った補中益気湯、十全大補湯、清暑益気湯、加味帰脾湯などは、疲労・倦怠感を改善してくれます。夏ばて気味の方はどうぞお試し下さい。

元気が出る漢方薬

梅雨明けと同時に大暑の頃を迎え、猛暑が続いています。電気代を節約して、あるいは冷房は嫌いだからと我慢していらっしゃいませんか?30℃を超えたら温度を28℃くらいに設定して冷房を使って下さい。特にマンションのような集合住宅にお住まいの方はお気をつけ下さい。最近は部屋の中にいて熱中症になるほど一昔前よりは暑くなりました。

ストレスの多い時代、えらい!しんどい!って疲労・倦怠感を抱えてらっしゃる方も多いのではないでしょうか?そんな方に栄養ドリンク以上に確実に効く薬が漢方にはあります。元気が出る薬、それが補剤と呼ばれる漢方薬です。

補剤の代表は補中(ほちゅう)(えっ)()(とう)です。名前の通り、(ちゅう)(ちゅう)(しょう))を補い、気を益す薬です。漢方医学では、(ちゅう)とは消化管(消化機能)のことです。つまり消化機能を補い、元気を出させる薬なのです。その中心となる生薬は人参(にんじん)です。生薬の中でも最も高価なものの一つです。食卓に並ぶセリ科の野菜のニンジンと違って、ウコギ科のオタネニンジンが生薬として用いられています。朝鮮人参、薬用人参、高麗人参などとも呼ばれていますが、なぜ高いのか申しますと、種子から根の収穫まで4~6年もかかるからです。また、一度収穫すると10~30年も同じ土地では栽培できないと言われています。次に大事な生薬が黄耆(おうぎ)です。人参と黄耆を含む漢方薬のことを参耆剤(じんぎざい)とも言います。補剤(参耆剤)の作用について、もう少し詳しく言いますと、補剤は本来生体が持つ、免疫機能の賦活、全身の栄養状態の改善、生体防御機能の回復、治癒力の促進の効能を持った薬剤群のことを指します。

最近よくテレビに出ている帝京大学の新見正則先生は、新型インフルエンザが話題になった頃、ご自身が行かれていた愛誠病院職員360人を2群に分け、補中益気湯を飲ませた群と飲ませなかった群でインフルエンザに罹患した数を比較研究されたそうです。その結果、飲んだ群では1例だったのに対し、飲ませなかった群では7人がインフルエンザに罹患したそうです。疲労回復促進することは風邪の予防にもつながるということですね。

ほかにも、夏ばて専用の補剤、清暑(せいしょ)(えっ)()(とう)や気が虚しただけでなく、血まで虚した状態、つまり貧血傾向、皮膚の乾燥や肌荒れがある人には十全(じゅうぜん)大補(たいほ)(とう)人参(にんじん)(よう)(えい)(とう)が使われます。人知れず頑張っている貴方、えらい、しんどいという慢性的な疲労は漢方では未病(みびょう)という状態で治療が可能なのですよ。

痩せ薬にはご用心

2008年から始まった特定健診制度もあってメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)という言葉が一時ブームにもなりました。これは内臓脂肪型肥満に加えて、高血糖、高血圧、脂質異常のうちいずれか2つ以上をあわせもった状態のことをいいます。

さて、そうしたメタボブームの中、痩せる薬として、2006年に小林製薬から「ナイシトール」が発売され、痩せ薬のOTC(一般用医薬品)市場もブームを迎えます。他にも「コッコアポ」やロート和漢箋シリーズの「ロート防風通聖散錠」などCMがテレビで流れ、痩せ薬の市場はなんと200億円くらいもあるそうです。そこで値段を調べてみました。4週間飲んだ場合で大体4,500円~5,600円(税込み)かかるようです。これらはいずれも中身は漢方薬の防風通(ぼうふうつう)聖散(しょうさん)です。医療用の防風通聖散も実はあります。ツムラのものは4週間分で薬価は1,911円、3割負担の場合で573円です。一般用はより安全性を重視し、医療用よりも薄味に作ってあります。なのに一般用がこんなに高いのはなにか不思議な気がします。

防風通聖散の効能は「腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の諸症:高血圧の随伴症状(どうき、肩こり、のぼせ)、肥満症、むくみ、便秘」となっています。ほかに肥満に使用される漢方には、水太りタイプの防已黄耆(ぼういおうぎ)(とう)、OTCではビスラットゴールドという名称で販売されている大柴(だいさい)()(とう)などがあります。

実は防風通聖散は意外と副作用が多いことでも知られています。能書には重大な副作用として、間質性肺炎、偽アルドステロン症、ミオパシー、肝機能障害、黄疸があげられています。また瀉下成分の大黄(だいおう)芒硝(ぼうしょう)が入っていますので、合わない方では下痢することもあります。

いずれにしても美容目的の極端なダイエットは危険です。薬で痩せようと思ってはいけません。正しい食事療法と運動療法が最も大事です。薬はそのサポートとお考え下さい。できれば医師の管理の下での肥満治療をお勧めします。

諸外国に比べると、日本人の肥満率は決して高くありません。BMI25以上の人が約25%、4人に1人くらいです。さらにBMI30以上となるとわずか4%くらいです。先進国(OECD加盟国)の中でも肥満率は最も低い国の一つなのです。長寿国としての所以なのかもしれませんね。

不眠症に用いる漢方薬

不眠をタイプ別に分類すると、入眠障害(寝つきが悪い)、熟眠障害(眠っているけどよく眠れた感じがしない)、中途覚醒(しばしば目が覚めてしまう)、早朝覚醒(早く目覚めてしまう)に分けられます。

食う、寝る、出すというのはヒトとしての基本的動作ですから実は大事なことのひとつだと思います。睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があることを聞かれた方もいるのではないでしょうか?浅い眠りをレム睡眠、深い眠りをノンレム睡眠といいます。今、特に高齢者の睡眠障害が増えていると言われています。その特徴はノンレム睡眠には4段階あるのですが、より深い眠りの第3,4段階の眠りが減少しているということが分ってきています。つまり浅い眠りの段階が増え、中途覚醒の回数と時間が増えているということです。

不眠に対する漢方薬の代表は、まず(さん)(そう)(にん)(とう)が挙げられます。2000年前の古医書「金匱(きんき)要略(ようりゃく)」に登場する薬です。条文には「虚労、虚煩、不得眠、酸棗仁湯主之」(虚労(きょろう)虚煩(きょはん)、眠ることを得ざるは、酸棗仁湯(さんそうにんとう)(これ)(つかさど)る)とあります。常に疲れて弱って、些細なことが気になって眠れないものを治すということです。酸棗仁湯に含まれる(さん)(そう)(にん)という生薬は不眠だけではなく、眠り過ぎにも有効で、睡眠異常の正常化薬だといわれています。

ほかには、イライラ感があって眠れないというものに、柴胡桂枝乾姜(さいこけいしかんきょう)(とう)(よく)肝散(かんさん)(さい)()加竜骨(かりゅうこつ)牡蛎(ぼれい)(とう)加味帰脾(かみきひ)(とう)など(さい)()という生薬の入ったものもよく用いられます。柴胡には肝(疳)の昂りを鎮める作用があります。

柴胡加竜骨牡蛎湯や(けい)()加竜骨(かりゅうこつ)牡蛎(ぼれい)(とう)に含まれる、竜骨(大型哺乳動物の骨の化石)や牡蛎(かきの殻)は、ともに主成分は炭酸カルシウムで精神安定作用を目的に加えられた生薬です。恐い夢を見るとか、物事に驚きやすいといった症状が使う目標になってきます。悪夢に効く漢方薬があるわけですね。

漢方薬はいずれも直接的な催眠剤ではないので、眠前投与とは限らず、1日3回服用も標準的な使い方です。ハングオーバー(薬の持ち越し効果)や脱力感、薬物依存などの心配もありません。日常生活に悪影響がないだけではなく、全身的な体調も整えてくれます。

尚、米国の調査では健康な人の睡眠時間は6~7時間だとする疫学データも出ています。つまり眠り過ぎも良くないということです。大事なのは時間ではなく、睡眠の質ということですね。