速効性のある漢方薬

 

漢方薬は長く飲まないと効かないと思っていませんか?そんなことはありません。
急性疾患に対してはすぐに効いてくれます。

sokkoukannpou.fw
風邪には(かっ)(こん)(とう)、インフルエンザには()黄湯(おうとう)、花粉症には小青(しょうせい)(りゅう)(とう)、特にこどもの急性胃腸炎(嘔吐・下痢)には五苓散(ごれいさん)、足がつった時の芍薬甘(しゃくやくかん)(ぞう)(とう)など、飲んですぐに(5分~15分で)効いてきます。
1976年に現在の漢方エキス製剤が薬価に収載されてから、当時は慢性疾患に対して多く用いられてきました。西洋薬でなかなか良くならない、難治性の病気に対して使われることが多かったのです。漢方医学教育がなかった当時としては仕方なかったのかもしれません。大学で漢方医学教育が始まったのは2001年以降です。世界最古の医学書と言われる(しょう)寒論(かんろん)は急性熱性疾患を対象にしています。飲んですぐ効かないとだめなんですね。
風邪やインフルエンザに効く漢方薬は、生体防御反応を促進するような薬です。ウィルスに罹患すると、それを排除しようと生体防御反応が働き出します。温熱産生スイッチがオンになり、熱に弱いウィルスを排除しようと体温を上昇させようと仕向けます。インターフェロンが出てきて、インターロイキン1αといったサイトカインと呼ばれる免疫物質が出てきます。その過剰な産生を抑えるのが外来ウィルスに対する漢方薬の作用だということが解ってきました。
芍薬甘草湯の効き方は未だよく解っていません。全ての漢方薬の中で2番目に多く使われているものです。名前の通り、芍薬と甘草の二味からなる最もシンプルな漢方薬です。それなのにまだよく解っていないのです。これまで芍薬のペオニフロリンと甘草のグリチルリチンがともに配糖体で、腸内細菌によって糖鎖が取れて有効成分が吸収されると考えられています。だから腸内細菌叢の状態によって効き方にも個人差があると考えられています。でもおそらく口腔粘膜からはもっと速やかに吸収され効果を発揮するのだと思います。口腔粘膜からだけではありません。五苓散は子供では注腸したり、独自に座薬を作製し使われているところもあります。おそらく粘膜から速やかに吸収され効果を発揮するんだと思います。
本来、急性疾患に対しては、1日3回毎食前というのはナンセンスなのです。頓服的に使われてきたのが実際です。但し保険上の問題、副作用の問題もあります。風邪には3-4時間おきに汗をかくまで。足がつったら即座に、夜中に足がつる人は寝る前に飲むのが効果的なのですが・・・

『抑肝散(よくかんさん)』という漢方薬

日本で一番使われている漢方薬は大建中(だいけんちゅう)(とう)だと書きました。二番目は芍薬甘(しゃくやくかん)(ぞう)(とう)です。そして三番目にくるのが(よく)肝散(かんさん)です。
(よく)肝散(かんさん)はもともと「保嬰撮(ほえいさつ)(よう)」(1556年(明の時代)全20巻からなる小児科専門書)という古医書を起源とする漢方薬です。
こどもの夜泣き、疳の虫に対して使われていた薬です。
それが今では、認知症の薬として頻用されているのです。きっかけは2005年に東北大学から認知症の周辺症状(認知機能以外の症状で、不安、不眠、抑うつ、興奮、徘徊、妄想など)に対して有効だとする論文が報告されてからです。
その後、多くの追随する臨床研究が行われ、周辺症状の特に、妄想、幻覚、興奮、攻撃性に対しては明らかに有用な薬剤だと認められてきました。介護の側からすれば周辺症状が強いほど負担は増大するわけですから使われるのも当然かもしれません。
江戸時代、目黒(めぐろ)(どう)(たく)(1739~1798)は『(さん)英館(えいかん)療治(りょうじ)雑話(ざつわ)』にて、抑肝散は~「怒つよく、性急なる等の児、皆肝血不足の証なり。この方久しく服すべし。」と書いています。
また和田(わだ)東郭(とうかく)(1744~1803)は『(しょう)窓方(そうほう)()(かい)』で、抑肝散は~「多怒、不眠、性急の症などはなはだしきを主症とするなり。」と書いています。
さらに江戸時代から明治にかけて活躍した浅田宗(あさだそう)(はく)(1815~1894)は『勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)』では、「半身不遂并びに不寐の証に此の方を用ゆるは・・・・怒気はなしやと問うべし」と記載しています。
ここで共通して認められることは、「怒」という言葉です。つまり、抑肝散は、イライラ、カリカリ感が背景にある方に使うとよいということです。
ちなみに浅田宗(あさだそう)(はく)とはあの「浅田飴」を作った人物です。
ikarishizumeru.fw
抑肝散に似た処方で(よく)肝散(かんさん)加陳皮半(かちんぴはん)()というものがあります。この出典は「本朝(ほんちょう)経験方(けいけんほう)」となっています。これは創始者がはっきりしないのですが、日本で創られた漢方薬ということです。五臓でいう肝は怒りを支配すると考えられています。ちょっと難しいのですが、五臓論では、相克の関係として、肝が傷めば、脾が傷むとされています。つまり肝が傷む(疳の高ぶる)結果、脾が傷む(消化器症状が出てくる)と考えられて創られた処方が抑肝散加陳皮半夏ということです。認知症が進んで食欲がなくなってきたり、消化器症状を伴うような方に適した処方です。保険適応薬にあるのですから、こうした方もそれなりに多いのかもしれません。

日本で一番売れている漢方薬

大建中(だいけんちゅう)(とう)という漢方薬があります。今、日本で一番使われている漢方薬です。

107592

 

構成はニンジン(人参)、サンショ(山椒)、ショウガ(乾姜(かんきょう)生姜(しょうきょう)を蒸して乾燥させたもので温める作用がより強力になる)で非常にシンプルな漢方薬です。

但し、これにコウイ(膠飴)と呼ばれる飴が10g入りますので量が多くなります。通常の漢方薬の倍量の1回2包、1日6包となります。1日量15g中10gは飴ということです。
大建中湯が最もよく使われている所は外科です。
開腹術をすると、どうしても腸管が癒着しやすくなります。これを大建中湯は防ぐ作用があるのです。

具体的には、腸管の動きを良くする、お腹を温める(腸管の血流を改善する)、炎症を抑えるなどといった作用を持っています。
内科的には便通異常にもよく使われます。便秘には一般的に大黄(だいおう)の主成分から抽出されたセンノシドを加工したものが良く使われます。刺激性下剤に分類されるものです。

便秘でない方も胃透視検査(バリウム検査)の後に飲まれたことがある方も多いのではないでしょうか?確かに効きますが、慢性の便秘の方では、これを常用すると次第に効きが悪くなってきます。これを耐性と言います。こうした難治性の便秘に対して大建中湯は有効な方も多くいらっしゃいます。
また、腹診(漢方的な診察でお腹を触って診察すること)で、お臍周りに冷えのある方では、便秘でも下痢でも効果があります。
似た名前の漢方薬で小建中(しょうけんちゅう)(とう)というのがあります。飴が入っている点は同じですが、その構成は桂皮(けいひ)(シャク)(やく)大棗(たいそう)(かん)(ぞう)生姜(しょうきょう)と全く違います。

小建中湯が一番多く使われるのは小児科です。よくお腹を痛がる虚弱なこどもの漢方薬です。名前は似て非なるものなので、合せて中建中湯として使われている先生もいらっしゃいます。
今、大建中湯は、術後のイレウスやクローン病を対象に米国でも臨床試験が行われています。米国ではサプリメントは盛んですが、今まで漢方薬は医薬品としては認められていませんでした。

でも、これまでの純粋な化合物に対し、多彩な作用を持つ複合物に対する期待も高まっています。漢方薬はまだまだ解らないことだらけです。生薬一つをとっても多くの成分が抽出されます。それを複数組み合わせているわけですから尚更複雑です。もっと漢方薬が役に立つように、今後の研究に期待するところです。

葛根湯(かっこんとう)について

先日(12月16日)もテレビで漢方薬のことを紹介していました。「林修の今でしょ!講座」という番組です。ご覧になられた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

その中で紹介されていたのは、

1.かぜにでも どんなときにも 葛 根 湯(かっこんとう)

2.筋肉が けいれんしたら   芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)

3.二日酔い お任せ下さい   五 苓 散(ごれいさん)

4.イライラに 女性の味方   加味逍遥散(かみしょうようさん)

さて、テレビなので多少、誇張表現はあるのだろうと思いますが、いささか説明が足りないと感じたのが葛根湯でした。

葛根湯という漢方薬はかぜのひき始めには本当に良い薬です。落語にも出てきますので葛根湯のことをご存知の方も多いと思います。

落語に出てくる葛根湯は、何にでも葛根湯を出す藪医者の話です。でも確かに葛根湯の効能を見ますと「感冒、鼻かぜ、熱性疾患の初期、炎症性疾患(結膜炎、角膜炎、中耳炎、扁桃腺炎、乳腺炎、リンパ腺炎)、肩こり、上半身の神経痛、じんましん」とあります。何にでも使えそうです。

「かぜ」に使う時は、ぜひ、お湯に溶いて飲んで下さい。体を温め、寒気を取ってくれるからです。用法・用量は「通常、成人1日7.5gを2-3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。」となっています。早く効かすために、最初は一度に2袋飲んでも構いません。でも次に飲む時は、3-4時間は空けて下さい。1日に6包までは飲んでも大丈夫です。但し、高齢者で慢性心疾患、虚血性心疾患、不整脈がある方はこの通りではありません。

速効性のある薬です。少し薬学的に言えば、()(おう)という生薬の主成分であるエフェドリンという物質は非常に早く吸収されます。1-2時間で血中濃度はピークを迎えます。だから速効性があるわけですが、逆に副作用を考えると、例えばお年寄りで前立腺肥大のあるような方ですと、おしっこが出なくなってしまう事もあるのです。ですから3-4時間は間隔を空けて欲しいのです。

肩こりにも効果的です。確かに項背部の表面温度が上がります。でもこの時は、風邪の時のような飲み方をしてはいけません。用法・用量どおり1日3回でお願いします。葛根湯は血液循環を改善し、頚部の凝りを緩和しているのだと思われます。

093935.fw

 

 

 

女性と漢方

昨年(2013年)の人口動態統計を見ますと合計特殊出生率は1.41で出生数から死亡数を引きますと24万4000人、人口が減ったことになります。この少子化の背景には晩婚化、晩産化があります。初産の年齢は30歳を過ぎています。

晩婚化・晩産化は、通常の月経周期を繰り返す女性が増えるということから、子宮内膜症、子宮筋腫の増加につながります。また最近の社会環境の変化から、過剰なストレスやダイエット、喫煙、運動不足などは月経不順や無月経の原因ともなります。

087430

さて、漢方薬は女性医療には欠かせないものとなってきていますが、漢方専門外来の7割は、女性だそうです。女性に対する3大処方と言われる当帰(とうき)芍薬散(しゃくやくさん)加味逍(かみしょう)遙散(ようさん)桂枝茯苓(けいしぶくりょう)(がん)を使っていない産婦人科病医院はありません。

 

漢方的に見た女性の特徴は、

①   「陰証(いんしょう)」が多い(冷え性が多い)。

  ⇒ 当帰(とうき)芍薬散(しゃくやくさん)当帰四逆加呉茱萸(とうきしぎゃくかごしゅゆ)生姜(しょうきょう)(とう)など

②   「虚証(きょしょう)」が多い(筋肉量が少ない下垂体質、疲れ易い、風邪を引き易い)。

  ⇒ 人参(にんじん)(とう)(りっ)君子(くんし)(とう)補中(ほちゅう)(えっ)()(とう)十全(じゅうぜん)大補(たいほ)(とう)など

③   「気鬱(きうつ)」が多い(軽微な抑うつ感が身体症状に現れ易い)。

  ⇒ 半夏(はんげ)厚朴(こうぼく)(とう)香蘇散(こうそさん)加味逍(かみしょう)遙散(ようさん)など

④   「(けつ)」の異常が多い。月経異常は「()(けつ)」であり、貧血や血行障害は「(けっ)(きょ)」と捉えます。

  ⇒ 瘀血 : 桂枝茯苓(けいしぶくりょう)(がん)桃核承(とうかくじょう)()(とう)など

  ⇒ 血虚 : 当帰(とうき)芍薬散(しゃくやくさん)十全(じゅうぜん)大補(たいほ)(とう)など

⑤   「(すい)」の異常も多い。浮腫内リンパ性水腫によるめまいも水の異常です。

  ⇒ 五苓散(ごれいさん)当帰(とうき)芍薬散(しゃくやくさん)など

 

お薬の方からまとめますと、

(23)当帰(とうき)芍薬散(しゃくやくさん) : 陰証、虚証、血虚、水毒

(24)加味逍遙散 : 気鬱

(25)桂枝茯苓丸 : 瘀血

となり、福岡県にある飯塚病院漢方診療科や「女性に劇的、漢方薬」などの著書のある益田総子先生らも、女性に対する漢方薬としては、当帰(とうき)芍薬散(しゃくやくさん)の使用量が最も多かったと報告しています。

乾燥肌が気になる方へ

まだ11月だというのに早くも雪の便りが聞こえてきました。寒暖差が激しく風邪にも注意が必要ですが、空気も乾燥し、肌の乾燥も一層気になる季節となりました。

081971

皮膚は表面から、表皮、真皮、角質層と分けられますが、表皮の最も外側にある角層の水分量が低く、皮脂の分泌が少ない状態を乾燥肌(ドライスキン)といいます。男性よりも女性に乾燥肌は多く、また加齢にともなって乾燥しがちになります。肌が乾燥すると、外部からの刺激を受けやすくなり、かぶれや湿疹の原因にもなりますので注意が必要です。

西洋医学的には、保湿外用剤など皮膚を保護する薬が用いられます。痒みが強いときは、ステロイド外用剤や抗ヒスタミン薬の飲み薬なども用いられます。

漢方では、乾燥肌は「(けつ)」が不足したり、滞っている状態と捉え、主に「(けっ)(きょ)」と診断します。代表的な治療薬は四物(しもつ)(とう)です。ただし、四物(しもつ)(とう)は単独で使われることは少なく、他の漢方薬と合わせて使われることが多い薬剤です。

四物(しもつ)(とう)は、当帰(とうき)芍薬(しゃくやく)川芎(せんきゅう)()(おう)から構成されています。この組み合わせを含む代表的な漢方処方には、温清飲(うんせいいん)当帰飲子(とうきいんし)十全(じゅうぜん)大補(たいほ)(とう)などがあります。

 

1.温清飲(うんせいいん) (57): 温清飲(うんせいいん)は、黄連(おうれん)解毒(げどく)(とう)四物(しもつ)(とう)の合方になります。効能は、「月経不順、月経困難、血の道症、更年期障害、神経症」となっていますが、その実態はほとんどアトピー性皮膚炎など、肌が乾燥し、痒みが強い皮膚症状に対して用いられることが多い漢方薬です。

2.当帰飲子(とうきいんし)(86) : 虚証の方の乾燥した皮膚掻痒症に用いられます。

3.十全(じゅうぜん)大補(たいほ)(とう)(48) : ()君子(くんし)(とう)四物(しもつ)(とう)の合方に更に黄耆(おうぎ)桂皮(けいひ)を加えたものです。気も血も虚した状態、つまり疲労感が強く、肌も荒れて、弱い方に用いられます。

また、最近では、漢方薬として飲むだけでなく浴用として用いることも研究されています。富山大学の皮膚科の研究では、当帰(とうき)()(おう)の入浴療法で角質水分量、水分保持能に有意な改善が得られることが明らかになっています。用い方は、当帰(とうき)()(おう)それぞれ2gを熱湯にて煎じて、入浴剤のようにお風呂に入れるとのことです。

肌の乾燥は、美容的にも気になりますね。気になる方はご相談下さい。

頭痛と漢方

朝夕めっきり涼しくなってきました。季節の変わり目を実感できる今日この頃ですが、1年後にはまた消費税が上がるのでしょうか、頭の痛い話です。

さて頭痛にも色々な頭痛があります。日本頭痛学会が紹介している国際頭痛分類では大きい分類として、一次性、二次性、その他と分けています。細かな分類ではその中で更に14種のタイプに分けているのですが、一般的に頭痛として馴染みがあるのは一次性のもので、片頭痛、緊張型頭痛ではないでしょうか。

032934

日本頭痛学会が作成している慢性頭痛の診療ガイドラインでは、5種類の漢方薬が掲載されています。でもそれら漢方薬のできた時代には当然、そうした分類はありません。自他覚的な症状によって分類されます。


1.呉茱萸(ごしゅゆ)(とう) (31): 頭痛がひどく嘔吐する。手足が冷える。

2.(けい)()人参(にんじん)(とう)(82) : 冷え性で胃腸虚弱。心窩部の圧痛。のぼせ。

3.(ちょう)藤散(とうさん)(47) : イライラ。高血圧気味。

4.(かつ)(こん)(とう)(1) : 後頭部・首・肩にかけての凝り。

5.五苓散(ごれいさん)(17) : 雨降り前の頭痛。


漢方の診断の第一歩は、冷えがあるかないかです。つまり、熱(暑さ)により増悪するのか、冷え(寒冷)によって増悪するのかです。

冷やす薬を清熱剤と称します。石膏(せっこう)黄連(おうれん)黄(おうごん)黄柏(おうばく)などが入った漢方薬が該当します。処方名では、(ちょう)藤散(とうさん)黄連(おうれん)解毒(げどく)(とう)などです。

逆に温めて冷えを改善する生薬には、乾姜(かんきょう)附子(ぶし)呉茱萸(ごしゅゆ)山椒(さんしょう)などがあります。頭痛に使う漢方薬としては、呉茱萸(ごしゅゆ)(とう)(けい)()人参(にんじん)(とう)(かつ)(こん)(とう)などです。

次のステップとして、()(けつ)(すい)の概念です。

1. ()(きょ)(胃腸が弱い)~(けい)()人参(にんじん)(とう)半夏白朮天(はんげびゃくじゅつてん)()(とう)

2. 気うつ・気逆(イライラ感や抑うつ感)~(ちょう)藤散(とうさん)黄連(おうれん)解毒(げどく)(とう)加味逍(かみしょう)遙散(ようさん)

3. 血虚(貧血、生理不順)~当帰(とうき)(しゃく)薬散(やくさん)

4. 瘀血(末梢循環不全)~桂枝茯苓(けいしぶくりょう)(がん)桃核承(とうかくじょう)()(とう)

5. 水毒(浮腫、水分代謝異常)~五苓散(ごれいさん)当帰(とうき)(しゃく)薬散(やくさん)

 この他にも鎮痛剤のように頓服でも使われる川芎(せんきゅう)茶調散(ちゃちょうさん)などもあります。代表的なものだけを書きましたが、このように多くの漢方薬が頭痛に用いられます。いずれにしても、冷えのあるなし、胃腸の強弱が処方決定の基本となります。

テレビに出る漢方薬

7月29日夜7時からテレビで「林修の今でしょ!講座」で帝京大学の新見正則先生が講師で

「漢方薬って本当に効果があるの?講座」ってやっていました。  089041

内容は

1.夏かぜ、2.肩こり、3.腰痛、4.うつ病、5.認知症、6.がん、7.肥満

に対するものでした。

 1.夏かぜに対しては、葛根湯、眠くならないのがメリット!

 2.肩こりには、急性期には葛根湯もいいが、長引いたら肩甲骨が固まってくるので動かすことが一番、

水泳がいいですよ。

 3.腰痛の急性期には勺薬甘草湯、慢性期のものには()(けい)(かっ)(けつ)(とう)

 4.うつ病には漢方はサポート程度で、うつ病もどきに加味帰脾(かみきひ)(とう)人参(にんじん)黄耆(おうぎ)の組み合わせが、気力、

体力も落ち込んだ状態を回復させてくれる。

 5.認知症に効く薬は、残念ながらまだ西洋薬、漢方薬にもありません。ただ漢方では興奮を抑えるのに  

(よく)肝散(かんさん)が注目されています。

 6.がんに効く漢方薬はありません。ただ、精神的疲労や抗がん剤の副作用を和らげるのに補中(ほちゅう)(えっ)()(とう)

役に立ちます。これも人参(にんじん)黄耆(おうぎ)の組み合わせが入っているので気力・体力を回復させてくれますから、

手術前や手術後に役に立ちます。

 7.肥満には、防風通(ぼうふうつう)聖散(しょうさん)が有名ですが、基本はイン・アウトの問題。取るカロリーと消費するカロリー

のバランスなので食事、運動療法が基本です。

といった内容でした。

さて、かぜに対する漢方薬は保険適応のものだけでも14種類もあります。また、腰痛の効能を持った漢方薬も8種類もあります。漢方薬は異病(いびょう)同治(どうち)(異なる病気でも同じ治療薬が用いられることがある)や同病(どうびょう)異治(いぢ)(同じ病気でも人によって使う薬が違う)が当たり前です。それは漢方薬が本来、生体の持っている自然治癒力を補うように作られたものが多いからです。病名は同じ風邪でも、ウィルスを撃退しようとする反応は人様々です。その風邪に対する代表が葛根湯であり、人によっては、()黄湯(おうとう)(けい)()(とう)麻黄附(まおうぶ)子細(しさい)(しん)(とう)などが使われることもあります。急性の腰痛に対する筋肉の緊張や痛みには、概ね芍薬甘草湯でいいでしょう。

うつ病や認知症、がんに対する効能を持った漢方薬は実はありません。ただ、その病気の症状によっては漢方薬が適応となることもあります。

人参・黄耆の入った補中益気湯、十全大補湯、清暑益気湯、加味帰脾湯などは、疲労・倦怠感を改善してくれます。夏ばて気味の方はどうぞお試し下さい。

元気が出る漢方薬

梅雨明けと同時に大暑の頃を迎え、猛暑が続いています。電気代を節約して、あるいは冷房は嫌いだからと我慢していらっしゃいませんか?30℃を超えたら温度を28℃くらいに設定して冷房を使って下さい。特にマンションのような集合住宅にお住まいの方はお気をつけ下さい。最近は部屋の中にいて熱中症になるほど一昔前よりは暑くなりました。

ストレスの多い時代、えらい!しんどい!って疲労・倦怠感を抱えてらっしゃる方も多いのではないでしょうか?そんな方に栄養ドリンク以上に確実に効く薬が漢方にはあります。元気が出る薬、それが補剤と呼ばれる漢方薬です。

補剤の代表は補中(ほちゅう)(えっ)()(とう)です。名前の通り、(ちゅう)(ちゅう)(しょう))を補い、気を益す薬です。漢方医学では、(ちゅう)とは消化管(消化機能)のことです。つまり消化機能を補い、元気を出させる薬なのです。その中心となる生薬は人参(にんじん)です。生薬の中でも最も高価なものの一つです。食卓に並ぶセリ科の野菜のニンジンと違って、ウコギ科のオタネニンジンが生薬として用いられています。朝鮮人参、薬用人参、高麗人参などとも呼ばれていますが、なぜ高いのか申しますと、種子から根の収穫まで4~6年もかかるからです。また、一度収穫すると10~30年も同じ土地では栽培できないと言われています。次に大事な生薬が黄耆(おうぎ)です。人参と黄耆を含む漢方薬のことを参耆剤(じんぎざい)とも言います。補剤(参耆剤)の作用について、もう少し詳しく言いますと、補剤は本来生体が持つ、免疫機能の賦活、全身の栄養状態の改善、生体防御機能の回復、治癒力の促進の効能を持った薬剤群のことを指します。

最近よくテレビに出ている帝京大学の新見正則先生は、新型インフルエンザが話題になった頃、ご自身が行かれていた愛誠病院職員360人を2群に分け、補中益気湯を飲ませた群と飲ませなかった群でインフルエンザに罹患した数を比較研究されたそうです。その結果、飲んだ群では1例だったのに対し、飲ませなかった群では7人がインフルエンザに罹患したそうです。疲労回復促進することは風邪の予防にもつながるということですね。

ほかにも、夏ばて専用の補剤、清暑(せいしょ)(えっ)()(とう)や気が虚しただけでなく、血まで虚した状態、つまり貧血傾向、皮膚の乾燥や肌荒れがある人には十全(じゅうぜん)大補(たいほ)(とう)人参(にんじん)(よう)(えい)(とう)が使われます。人知れず頑張っている貴方、えらい、しんどいという慢性的な疲労は漢方では未病(みびょう)という状態で治療が可能なのですよ。

痩せ薬にはご用心

2008年から始まった特定健診制度もあってメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)という言葉が一時ブームにもなりました。これは内臓脂肪型肥満に加えて、高血糖、高血圧、脂質異常のうちいずれか2つ以上をあわせもった状態のことをいいます。

さて、そうしたメタボブームの中、痩せる薬として、2006年に小林製薬から「ナイシトール」が発売され、痩せ薬のOTC(一般用医薬品)市場もブームを迎えます。他にも「コッコアポ」やロート和漢箋シリーズの「ロート防風通聖散錠」などCMがテレビで流れ、痩せ薬の市場はなんと200億円くらいもあるそうです。そこで値段を調べてみました。4週間飲んだ場合で大体4,500円~5,600円(税込み)かかるようです。これらはいずれも中身は漢方薬の防風通(ぼうふうつう)聖散(しょうさん)です。医療用の防風通聖散も実はあります。ツムラのものは4週間分で薬価は1,911円、3割負担の場合で573円です。一般用はより安全性を重視し、医療用よりも薄味に作ってあります。なのに一般用がこんなに高いのはなにか不思議な気がします。

防風通聖散の効能は「腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の諸症:高血圧の随伴症状(どうき、肩こり、のぼせ)、肥満症、むくみ、便秘」となっています。ほかに肥満に使用される漢方には、水太りタイプの防已黄耆(ぼういおうぎ)(とう)、OTCではビスラットゴールドという名称で販売されている大柴(だいさい)()(とう)などがあります。

実は防風通聖散は意外と副作用が多いことでも知られています。能書には重大な副作用として、間質性肺炎、偽アルドステロン症、ミオパシー、肝機能障害、黄疸があげられています。また瀉下成分の大黄(だいおう)芒硝(ぼうしょう)が入っていますので、合わない方では下痢することもあります。

いずれにしても美容目的の極端なダイエットは危険です。薬で痩せようと思ってはいけません。正しい食事療法と運動療法が最も大事です。薬はそのサポートとお考え下さい。できれば医師の管理の下での肥満治療をお勧めします。

諸外国に比べると、日本人の肥満率は決して高くありません。BMI25以上の人が約25%、4人に1人くらいです。さらにBMI30以上となるとわずか4%くらいです。先進国(OECD加盟国)の中でも肥満率は最も低い国の一つなのです。長寿国としての所以なのかもしれませんね。