痛みに対する漢方薬

先日7月12日(日)のNHKスペシャルで、「腰痛・治療革命」と題して放映していました。
ご覧になられた方も多いのではないでしょうか?
内容は、痛みの原因は脳にあり、痛みに対する不安や恐怖を取り除けば症状が改善する方もいるといったものでした。

痛みに対する専門家はペインクリニックと呼ばれ、主に麻酔科に所属する先生方が担っていますが、一般には町のお医者さんとしては少ないのが現状です。
腰が痛い、肩が痛いといって皆さんが受診されるのは整形外科が多いのではないでしょうか?
例えば階段から落ちて腰を打ったという痛みがあります。骨折していなければ、湿布、さらに鎮痛薬が処方されて安静の指示が出てそれでおおよその診療は終わりです。それで普通、痛みは消えていくのですが、数週間たっても痛みが消えずお困りの方もいらっしゃいます。
そこで漢方の出番なのですが、そんな痛みに漢方が効くの?と思われるかもしれませんが、歴史を振り返ってみますと、江戸時代、世界で最初に乳癌のオペに成功した華岡(はなおか)(せい)(しゅう)が麻酔薬として使ったのは、実は「通仙散(つうせんさん)」という漢方薬なのです。さて打撲の初期は痛く腫れて熱を持ちますがそれがだんだん冷えていきます。お風呂に入ると痛みが楽になる。そういう方はまさに漢方薬が適応します。冷えて痛む時は、附子剤(ぶしざい)の出番です。附子(ぶし)という生薬は、生薬の中でも最も温める作用が強く、鎮痛作用を持った生薬です。打った、捻ったという痛みが長引いた時、具体的には、()打撲(だぼく)一方(いっぽう)と附子末、あるいは治打撲一方と桂枝加朮附(けいしかじゅつぶ)(とう)という組み合わせがよく効きます。西洋医学では冷えに対する対処法がありませんが、漢方では冷えを改善する手段があります。ですから冷えのある痛みに対しては漢方の方が優れているのです。
腰下肢痛の場合、いわゆる、ぎっくり腰なら芍薬甘(しゃくやくかん)(ぞう)(とう)桂枝茯苓(けいしぶくりょう)(がん)、あるいは、治打撲一方と()(けい)(かっ)(けつ)(とう)の組み合わせ。高齢者なら八味地(はちみじ)黄丸(おうがん)と桂枝茯苓丸、少し浮腫がみられれば牛車(ごしゃ)(じん)()(がん)と桂枝茯苓丸の組み合わせが有効です。
帯状疱疹後神経痛では麻黄附(まおうぶ)子細(しさい)(しん)(とう)などが効きますが、じっとしていれば痛みはないが、少し触れただけ、風が吹いただけでも痛みを感じるアロディニアという状態に対して、神経周囲組織が炎症後に乾いた状態になっていると考え、そこを潤してやろうという漢方薬、六味(ろくみ)(がん)麦門(ばくもん)(どう)(とう)の組み合わせが不思議なほど効果的です。
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女性と高齢者に多い便秘

男性に比べて「女性」に便秘が多いのはなぜでしょうか?

それは筋力の違い、生理があること(女性ホルモンとの関係)、ダイエットです。
女性のための漢方治療では、積極的に便秘を解消することが薦められています。
その代表は桃核承(とうかくじょう)()(とう)です。月経痛、月経不順、更年期障害、にきびその他の皮膚症状などのときには少しでも大黄(だいおう)の入った漢方薬を用いるとよいとも教科書には書いています。承気湯という名前がつく漢方薬には、大黄と芒硝(ぼうしょう)が含まれています。大黄は刺激性下剤でアローゼンやプルゼニドと同じ成分を含んでいます。芒硝は塩類下剤で酸化マグネシウムと似た成分を含んでいて、便を柔らかくする作用があります。西洋薬の瀉下剤は成分が純粋なだけに最初は良くても毎日連用していたら次第に効かなくなってしまいます。これを耐性(たいせい)といいます。通常量の瀉下剤で効かないという方は早めに漢方薬への切り替えをお勧めします。

さて、高齢者」に便秘が多いのはなぜでしょうか?
それは加齢に伴う筋力の低下、生理機能の低下(体の乾燥=水分不足)などが考えられます。
高齢者の瀉下剤の代表は、麻子(まし)(にん)(がん)です。これにも大黄が含まれています。日本老年医学会の高齢者のための薬物治療のガイドラインにも推奨されています。
最近発売された新薬にアミティーザというものがあります。これは小腸の水分分泌量を上げて便を軟らかくし排泄しやすくする薬です。実は漢方薬にも滋潤剤というものがあります。その代表的なものは、()(おう)や麻子仁、(きょう)(にん)などです。精油成分を含み、便を滑りやすくし便通を改善させる潤腸作用があると言われているものですが、最近の研究で、やはり小腸での水分分泌量を増やすことが明らかになってきています。
日本老年医学会診療ガイドラインでは、麻子仁丸をセンナや大黄末、鉱物性下剤よりもまず先に使うと推奨しています。使い方は、眠前1包で十分。もし効果が弱い時は眠前2包もしくは2包分2(眠前1包、朝1包)でもよいとしています。
もう一つ高齢者向けの瀉下剤として(じゅん)(ちょう)(とう)というものもあります。この違いは、麻子仁丸に比べて大黄の量が半分なのでよりマイルド、虚弱者向けともいえますが、甘草を含みますので長期には偽アルドステロン症への注意が必要です。甘草を含まない麻子仁丸はそうした副作用への懸念のないことも推奨理由の一つなのではないかと考えられます。

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日本老年医学会診療ガイドラインと漢方

診療ガイドラインとは、患者と医療者を支援する目的で作成され、臨床現場における意思決定の際に、判断材料の一つとして利用することができる、科学的根拠に基づき、系統的な手法により作成された推奨を含む文書で、診療ガイドラインの作成母体のほとんどが、その疾患領域の学会です。
最近、その診療ガイドラインに漢方薬が掲載されていることも多く、一般的な診療方法として、漢方薬による治療が認められてきたということではないでしょうか。
さて、日本老年医学会診療ガイドライン案にも9つの漢方薬が掲載されています。
(よく)肝散(かんさん)(認知症に伴う易怒、幻覚、妄想、暴力的行動など)
(ちょう)藤散(とうさん)(脳血管性障害の認知機能・日常生活動作)
麦門(ばくもん)(どう)(とう)(COPDや風邪の長引く乾性咳嗽)
半夏(はんげ)厚朴(こうぼく)(とう)(嚥下障害・誤嚥性肺炎)
大建中(だいけんちゅう)(とう)(慢性便秘、イレウス)
麻子(まし)(にん)(がん)(便秘)
(りっ)君子(くんし)(とう)(機能性胃腸症、胃食道逆流)
()黄湯(おうとう)(インフルエンザ)
補中
(ほちゅう)(えっ)()(とう)(COPDのほか、炎症性疾患や感染症が長引く場合)です。
実はこれを知ったのは新聞報道でした。
4月の某新聞に大きく、約50種「高齢者避けて」老年医学会、医療者向け指針案という見出しで、中止を考えるべき薬と副作用の例として掲載された表の中に、甘草を含む漢方薬が載っていたのでした。
しかしよくその中味を見てみると、75才以上の高齢者に1ヶ月以上長期に使う場合で、中止を考慮すべき薬剤もしくは注意すべき副作用を考慮した使い方のリストと、強く推奨される薬物もしくはその注意すべき副作用を考慮した使い方のリストから構成されています。
比較的副作用が少なく安心と考えられている漢方薬ですが、注意すべき副作用もあるんですよという意味で、生薬レベルでの注意の一部が新聞に掲載されていたものと思いますが、話題になりやすい、一般の方の関心を引きやすい部分だけをNEWSにしていたのです。
これを読まれた方は大きな誤解をされたのではないでしょうか。
日本老年医学会のガイドラインの解説では、漢方薬の懸念される副作用を考慮した使い方を記載する一方で、推奨される薬物リストに上記の9種類の漢方薬を記載しています。
またその解説では、実際の臨床経験に基づいて上記9種類以外にも服用方法まで含めて詳細に記載し、高齢者医療における漢方治療を推奨しています。
膨大な量の報告書をNEWSにしようとすると仕方ないのでしょうが、マスコミに踊らされることなく、改めて報道はその行間を読むことが必要だと感じました。
何か心配なことがあればどうぞご相談ください。
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漢方の口訣(くけつ)

幕末から江戸時代にかけての名医、浅田宗(あさだそう)(はく)(1815~1894)は幕府の奥医師を務めたのち明治天皇の侍医を務めていますが、たいへん多くの著書も残しています。
その中でも、「老医口訣(ろういくけつ)」や「勿語薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)」など口訣(くけつ)に関するものもたくさんあります。
口訣とは、臨床経験を多数重ねた先達が証の中核について言い当てた言葉であって、師匠から弟子たちに伝えられてきた奥義のようなものです。
漢方の研修施設でもある、福岡県の飯塚病院漢方診療科から発行されている「使ってみよう、こんな時に漢方薬」という書籍にも「飯塚病院に伝わる50の口訣」として紹介が載っています。そこには、「冷え」という病態を重視した言葉がよく出てきます。「慢性疾患で長患いしている患者さんには冷えがある」、「難治性のアトピー性皮膚炎には冷え(寒)が隠れていることがある」といった感じです。
冷えに対する代表的な生薬は、附子と乾姜です。これらが入っていれば、おおよそ体を温める漢方薬と考えてもいいでしょう。附子はバーナーで燃やすように激しく温めます。ショック状態などにも使用されることから,衰弱した生体機能を賦活させるような薬です。一方、乾姜はトロトロと弱火で温めるようなイメージです。消化管や肺を中心に温めながら元気をつけていく作用があります。
全身を温める代表は茯苓四(ぶくりょうし)逆湯(ぎゃくとう)、エキス剤では(しん)()(とう)人参(にんじん)(とう)を合わせて使います。これには附子と乾姜の両方が入ってきます。腰の冷えには苓姜朮甘(りょうきょうじゅつかん)(とう)、下肢の冷えには八味地(はちみじ)黄丸(おうがん)牛車(ごしゃ)(じん)()(がん)、指先の冷えには当帰四逆加呉茱萸(とうきしぎゃくかごしゅゆ)生姜(しょうきょう)(とう)などが温める代表的な漢方薬です。整形外科的な慢性の痛み、腰痛や下肢痛、しびれ、末梢循環障害などにもこれらがよく応用されます。また、附子は単独で、ブシ末(調剤用)という形で製品化されていて、これらエキス剤に加えて使われたりもしています。
さて口訣は、さながら現代の医学書で「今日の治療指針」にあたるようなところもありますが、それをより詳細に述べたところもあります。
でも100年ちょっと前の「勿語薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)」にしても現代用語からすると読解が難しい部分もあります。それは現代医学の著しい進歩もあれば、病気の多様化、高齢化といった環境の変化が、昔の口訣だけでは追いつかないところもあるからだと思います。古典的な口訣を大事にしつつも、現代の新たな口訣が求められるところです。

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速効性のある漢方薬

 

漢方薬は長く飲まないと効かないと思っていませんか?そんなことはありません。
急性疾患に対してはすぐに効いてくれます。

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風邪には(かっ)(こん)(とう)、インフルエンザには()黄湯(おうとう)、花粉症には小青(しょうせい)(りゅう)(とう)、特にこどもの急性胃腸炎(嘔吐・下痢)には五苓散(ごれいさん)、足がつった時の芍薬甘(しゃくやくかん)(ぞう)(とう)など、飲んですぐに(5分~15分で)効いてきます。
1976年に現在の漢方エキス製剤が薬価に収載されてから、当時は慢性疾患に対して多く用いられてきました。西洋薬でなかなか良くならない、難治性の病気に対して使われることが多かったのです。漢方医学教育がなかった当時としては仕方なかったのかもしれません。大学で漢方医学教育が始まったのは2001年以降です。世界最古の医学書と言われる(しょう)寒論(かんろん)は急性熱性疾患を対象にしています。飲んですぐ効かないとだめなんですね。
風邪やインフルエンザに効く漢方薬は、生体防御反応を促進するような薬です。ウィルスに罹患すると、それを排除しようと生体防御反応が働き出します。温熱産生スイッチがオンになり、熱に弱いウィルスを排除しようと体温を上昇させようと仕向けます。インターフェロンが出てきて、インターロイキン1αといったサイトカインと呼ばれる免疫物質が出てきます。その過剰な産生を抑えるのが外来ウィルスに対する漢方薬の作用だということが解ってきました。
芍薬甘草湯の効き方は未だよく解っていません。全ての漢方薬の中で2番目に多く使われているものです。名前の通り、芍薬と甘草の二味からなる最もシンプルな漢方薬です。それなのにまだよく解っていないのです。これまで芍薬のペオニフロリンと甘草のグリチルリチンがともに配糖体で、腸内細菌によって糖鎖が取れて有効成分が吸収されると考えられています。だから腸内細菌叢の状態によって効き方にも個人差があると考えられています。でもおそらく口腔粘膜からはもっと速やかに吸収され効果を発揮するのだと思います。口腔粘膜からだけではありません。五苓散は子供では注腸したり、独自に座薬を作製し使われているところもあります。おそらく粘膜から速やかに吸収され効果を発揮するんだと思います。
本来、急性疾患に対しては、1日3回毎食前というのはナンセンスなのです。頓服的に使われてきたのが実際です。但し保険上の問題、副作用の問題もあります。風邪には3-4時間おきに汗をかくまで。足がつったら即座に、夜中に足がつる人は寝る前に飲むのが効果的なのですが・・・

『抑肝散(よくかんさん)』という漢方薬

日本で一番使われている漢方薬は大建中(だいけんちゅう)(とう)だと書きました。二番目は芍薬甘(しゃくやくかん)(ぞう)(とう)です。そして三番目にくるのが(よく)肝散(かんさん)です。
(よく)肝散(かんさん)はもともと「保嬰撮(ほえいさつ)(よう)」(1556年(明の時代)全20巻からなる小児科専門書)という古医書を起源とする漢方薬です。
こどもの夜泣き、疳の虫に対して使われていた薬です。
それが今では、認知症の薬として頻用されているのです。きっかけは2005年に東北大学から認知症の周辺症状(認知機能以外の症状で、不安、不眠、抑うつ、興奮、徘徊、妄想など)に対して有効だとする論文が報告されてからです。
その後、多くの追随する臨床研究が行われ、周辺症状の特に、妄想、幻覚、興奮、攻撃性に対しては明らかに有用な薬剤だと認められてきました。介護の側からすれば周辺症状が強いほど負担は増大するわけですから使われるのも当然かもしれません。
江戸時代、目黒(めぐろ)(どう)(たく)(1739~1798)は『(さん)英館(えいかん)療治(りょうじ)雑話(ざつわ)』にて、抑肝散は~「怒つよく、性急なる等の児、皆肝血不足の証なり。この方久しく服すべし。」と書いています。
また和田(わだ)東郭(とうかく)(1744~1803)は『(しょう)窓方(そうほう)()(かい)』で、抑肝散は~「多怒、不眠、性急の症などはなはだしきを主症とするなり。」と書いています。
さらに江戸時代から明治にかけて活躍した浅田宗(あさだそう)(はく)(1815~1894)は『勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)』では、「半身不遂并びに不寐の証に此の方を用ゆるは・・・・怒気はなしやと問うべし」と記載しています。
ここで共通して認められることは、「怒」という言葉です。つまり、抑肝散は、イライラ、カリカリ感が背景にある方に使うとよいということです。
ちなみに浅田宗(あさだそう)(はく)とはあの「浅田飴」を作った人物です。
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抑肝散に似た処方で(よく)肝散(かんさん)加陳皮半(かちんぴはん)()というものがあります。この出典は「本朝(ほんちょう)経験方(けいけんほう)」となっています。これは創始者がはっきりしないのですが、日本で創られた漢方薬ということです。五臓でいう肝は怒りを支配すると考えられています。ちょっと難しいのですが、五臓論では、相克の関係として、肝が傷めば、脾が傷むとされています。つまり肝が傷む(疳の高ぶる)結果、脾が傷む(消化器症状が出てくる)と考えられて創られた処方が抑肝散加陳皮半夏ということです。認知症が進んで食欲がなくなってきたり、消化器症状を伴うような方に適した処方です。保険適応薬にあるのですから、こうした方もそれなりに多いのかもしれません。

日本で一番売れている漢方薬

大建中(だいけんちゅう)(とう)という漢方薬があります。今、日本で一番使われている漢方薬です。

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構成はニンジン(人参)、サンショ(山椒)、ショウガ(乾姜(かんきょう)生姜(しょうきょう)を蒸して乾燥させたもので温める作用がより強力になる)で非常にシンプルな漢方薬です。

但し、これにコウイ(膠飴)と呼ばれる飴が10g入りますので量が多くなります。通常の漢方薬の倍量の1回2包、1日6包となります。1日量15g中10gは飴ということです。
大建中湯が最もよく使われている所は外科です。
開腹術をすると、どうしても腸管が癒着しやすくなります。これを大建中湯は防ぐ作用があるのです。

具体的には、腸管の動きを良くする、お腹を温める(腸管の血流を改善する)、炎症を抑えるなどといった作用を持っています。
内科的には便通異常にもよく使われます。便秘には一般的に大黄(だいおう)の主成分から抽出されたセンノシドを加工したものが良く使われます。刺激性下剤に分類されるものです。

便秘でない方も胃透視検査(バリウム検査)の後に飲まれたことがある方も多いのではないでしょうか?確かに効きますが、慢性の便秘の方では、これを常用すると次第に効きが悪くなってきます。これを耐性と言います。こうした難治性の便秘に対して大建中湯は有効な方も多くいらっしゃいます。
また、腹診(漢方的な診察でお腹を触って診察すること)で、お臍周りに冷えのある方では、便秘でも下痢でも効果があります。
似た名前の漢方薬で小建中(しょうけんちゅう)(とう)というのがあります。飴が入っている点は同じですが、その構成は桂皮(けいひ)(シャク)(やく)大棗(たいそう)(かん)(ぞう)生姜(しょうきょう)と全く違います。

小建中湯が一番多く使われるのは小児科です。よくお腹を痛がる虚弱なこどもの漢方薬です。名前は似て非なるものなので、合せて中建中湯として使われている先生もいらっしゃいます。
今、大建中湯は、術後のイレウスやクローン病を対象に米国でも臨床試験が行われています。米国ではサプリメントは盛んですが、今まで漢方薬は医薬品としては認められていませんでした。

でも、これまでの純粋な化合物に対し、多彩な作用を持つ複合物に対する期待も高まっています。漢方薬はまだまだ解らないことだらけです。生薬一つをとっても多くの成分が抽出されます。それを複数組み合わせているわけですから尚更複雑です。もっと漢方薬が役に立つように、今後の研究に期待するところです。

葛根湯(かっこんとう)について

先日(12月16日)もテレビで漢方薬のことを紹介していました。「林修の今でしょ!講座」という番組です。ご覧になられた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

その中で紹介されていたのは、

1.かぜにでも どんなときにも 葛 根 湯(かっこんとう)

2.筋肉が けいれんしたら   芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)

3.二日酔い お任せ下さい   五 苓 散(ごれいさん)

4.イライラに 女性の味方   加味逍遥散(かみしょうようさん)

さて、テレビなので多少、誇張表現はあるのだろうと思いますが、いささか説明が足りないと感じたのが葛根湯でした。

葛根湯という漢方薬はかぜのひき始めには本当に良い薬です。落語にも出てきますので葛根湯のことをご存知の方も多いと思います。

落語に出てくる葛根湯は、何にでも葛根湯を出す藪医者の話です。でも確かに葛根湯の効能を見ますと「感冒、鼻かぜ、熱性疾患の初期、炎症性疾患(結膜炎、角膜炎、中耳炎、扁桃腺炎、乳腺炎、リンパ腺炎)、肩こり、上半身の神経痛、じんましん」とあります。何にでも使えそうです。

「かぜ」に使う時は、ぜひ、お湯に溶いて飲んで下さい。体を温め、寒気を取ってくれるからです。用法・用量は「通常、成人1日7.5gを2-3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。」となっています。早く効かすために、最初は一度に2袋飲んでも構いません。でも次に飲む時は、3-4時間は空けて下さい。1日に6包までは飲んでも大丈夫です。但し、高齢者で慢性心疾患、虚血性心疾患、不整脈がある方はこの通りではありません。

速効性のある薬です。少し薬学的に言えば、()(おう)という生薬の主成分であるエフェドリンという物質は非常に早く吸収されます。1-2時間で血中濃度はピークを迎えます。だから速効性があるわけですが、逆に副作用を考えると、例えばお年寄りで前立腺肥大のあるような方ですと、おしっこが出なくなってしまう事もあるのです。ですから3-4時間は間隔を空けて欲しいのです。

肩こりにも効果的です。確かに項背部の表面温度が上がります。でもこの時は、風邪の時のような飲み方をしてはいけません。用法・用量どおり1日3回でお願いします。葛根湯は血液循環を改善し、頚部の凝りを緩和しているのだと思われます。

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女性と漢方

昨年(2013年)の人口動態統計を見ますと合計特殊出生率は1.41で出生数から死亡数を引きますと24万4000人、人口が減ったことになります。この少子化の背景には晩婚化、晩産化があります。初産の年齢は30歳を過ぎています。

晩婚化・晩産化は、通常の月経周期を繰り返す女性が増えるということから、子宮内膜症、子宮筋腫の増加につながります。また最近の社会環境の変化から、過剰なストレスやダイエット、喫煙、運動不足などは月経不順や無月経の原因ともなります。

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さて、漢方薬は女性医療には欠かせないものとなってきていますが、漢方専門外来の7割は、女性だそうです。女性に対する3大処方と言われる当帰(とうき)芍薬散(しゃくやくさん)加味逍(かみしょう)遙散(ようさん)桂枝茯苓(けいしぶくりょう)(がん)を使っていない産婦人科病医院はありません。

 

漢方的に見た女性の特徴は、

①   「陰証(いんしょう)」が多い(冷え性が多い)。

  ⇒ 当帰(とうき)芍薬散(しゃくやくさん)当帰四逆加呉茱萸(とうきしぎゃくかごしゅゆ)生姜(しょうきょう)(とう)など

②   「虚証(きょしょう)」が多い(筋肉量が少ない下垂体質、疲れ易い、風邪を引き易い)。

  ⇒ 人参(にんじん)(とう)(りっ)君子(くんし)(とう)補中(ほちゅう)(えっ)()(とう)十全(じゅうぜん)大補(たいほ)(とう)など

③   「気鬱(きうつ)」が多い(軽微な抑うつ感が身体症状に現れ易い)。

  ⇒ 半夏(はんげ)厚朴(こうぼく)(とう)香蘇散(こうそさん)加味逍(かみしょう)遙散(ようさん)など

④   「(けつ)」の異常が多い。月経異常は「()(けつ)」であり、貧血や血行障害は「(けっ)(きょ)」と捉えます。

  ⇒ 瘀血 : 桂枝茯苓(けいしぶくりょう)(がん)桃核承(とうかくじょう)()(とう)など

  ⇒ 血虚 : 当帰(とうき)芍薬散(しゃくやくさん)十全(じゅうぜん)大補(たいほ)(とう)など

⑤   「(すい)」の異常も多い。浮腫内リンパ性水腫によるめまいも水の異常です。

  ⇒ 五苓散(ごれいさん)当帰(とうき)芍薬散(しゃくやくさん)など

 

お薬の方からまとめますと、

(23)当帰(とうき)芍薬散(しゃくやくさん) : 陰証、虚証、血虚、水毒

(24)加味逍遙散 : 気鬱

(25)桂枝茯苓丸 : 瘀血

となり、福岡県にある飯塚病院漢方診療科や「女性に劇的、漢方薬」などの著書のある益田総子先生らも、女性に対する漢方薬としては、当帰(とうき)芍薬散(しゃくやくさん)の使用量が最も多かったと報告しています。

乾燥肌が気になる方へ

まだ11月だというのに早くも雪の便りが聞こえてきました。寒暖差が激しく風邪にも注意が必要ですが、空気も乾燥し、肌の乾燥も一層気になる季節となりました。

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皮膚は表面から、表皮、真皮、角質層と分けられますが、表皮の最も外側にある角層の水分量が低く、皮脂の分泌が少ない状態を乾燥肌(ドライスキン)といいます。男性よりも女性に乾燥肌は多く、また加齢にともなって乾燥しがちになります。肌が乾燥すると、外部からの刺激を受けやすくなり、かぶれや湿疹の原因にもなりますので注意が必要です。

西洋医学的には、保湿外用剤など皮膚を保護する薬が用いられます。痒みが強いときは、ステロイド外用剤や抗ヒスタミン薬の飲み薬なども用いられます。

漢方では、乾燥肌は「(けつ)」が不足したり、滞っている状態と捉え、主に「(けっ)(きょ)」と診断します。代表的な治療薬は四物(しもつ)(とう)です。ただし、四物(しもつ)(とう)は単独で使われることは少なく、他の漢方薬と合わせて使われることが多い薬剤です。

四物(しもつ)(とう)は、当帰(とうき)芍薬(しゃくやく)川芎(せんきゅう)()(おう)から構成されています。この組み合わせを含む代表的な漢方処方には、温清飲(うんせいいん)当帰飲子(とうきいんし)十全(じゅうぜん)大補(たいほ)(とう)などがあります。

 

1.温清飲(うんせいいん) (57): 温清飲(うんせいいん)は、黄連(おうれん)解毒(げどく)(とう)四物(しもつ)(とう)の合方になります。効能は、「月経不順、月経困難、血の道症、更年期障害、神経症」となっていますが、その実態はほとんどアトピー性皮膚炎など、肌が乾燥し、痒みが強い皮膚症状に対して用いられることが多い漢方薬です。

2.当帰飲子(とうきいんし)(86) : 虚証の方の乾燥した皮膚掻痒症に用いられます。

3.十全(じゅうぜん)大補(たいほ)(とう)(48) : ()君子(くんし)(とう)四物(しもつ)(とう)の合方に更に黄耆(おうぎ)桂皮(けいひ)を加えたものです。気も血も虚した状態、つまり疲労感が強く、肌も荒れて、弱い方に用いられます。

また、最近では、漢方薬として飲むだけでなく浴用として用いることも研究されています。富山大学の皮膚科の研究では、当帰(とうき)()(おう)の入浴療法で角質水分量、水分保持能に有意な改善が得られることが明らかになっています。用い方は、当帰(とうき)()(おう)それぞれ2gを熱湯にて煎じて、入浴剤のようにお風呂に入れるとのことです。

肌の乾燥は、美容的にも気になりますね。気になる方はご相談下さい。