つらい花粉症には漢方を

だんだんと春の陽気に包まれるようになってきましたね。
それと同時に、花粉も飛び始めました。
『今年もついに来たな!?』と億劫に感じられている方もいらっしゃるのでは…?
せっかく温かくなって『春』という心躍る季節がやってくるというのに、楽しみを半減させるのが『花粉症』ですね。
桜のお花見を楽しむためにも、漢方薬を飲んで症状を和らげましょう! 
皆さんは花粉症の薬に“効き目の強さ”があるのをご存知ですか?
症状がひどい人には強いお薬が使われたりしますが、患者さんによっては眠気が起こると困る方もいますよね。
最近有名なアレグラ、ディレグラといったお薬は、眠気は少ないようですが、効果が少し弱い場合もあります。
花粉症の薬はそのようなところでコントロールが難しかったりします。 
『眠気は起きないでほしいが、よく効いてほしい!!』これが花粉症を患う人の強い願いでしょう。
そんな時こそ 小青(しょうせい)(りゅう)(とう) です!
小青(しょうせい)(りゅう)(とう)には()(おう)(主成分:エフェドリン)という生薬が含まれており、眠気を起こさず くしゃみ、鼻水、鼻づまりを改善するのです。
 
小青(しょうせい)(りゅう)(とう)は『体の中から強力に温めて、鼻に溜まった水を散らす』為に作られた薬です。
8種類の生薬で構成されていますが、主な作用は次の通りです。 
()(おう)(さい)(しん)桂皮(けいひ)半夏(はんげ)乾姜(かんきょう)
強く温め、鎮咳去痰する。
五味子(ごみし)
潤いを保持し、鎮咳する。
 
症状がひどくて、鼻水がのどに流れてしまい痰や咳が出てしまってもこの薬で対処できます。
味は酸っぱいですが、気にならない方はお湯にといて飲むとより効きが早くなります。
(通常は約30分で効果が見られます)
 
私がおすすめしたいのは、小青(しょうせい)(りゅう)(とう)補完的に使う という事です。
【服用のポイント】
① 日中⇒小青(しょうせい)(りゅう)(とう)、夜間⇒花粉症の薬(抗アレルギー剤)を。
② 抗アレルギー剤の効果を高めたい時、眠気を抑えたい時に頓服として併用する。
③ アレルギー性結膜炎にも効果があるので、目のかゆみを伴う場合に。
このような使い方が出来ますので、是非試してみてください。

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『しもやけ』に漢方を

最近は、冬の季節ならではの『しもやけ』で来院される患者さんが多く見受けられます。
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来院されずとも、毎年しもやけによる痛みや痒みで困っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
特に女性は家事で水に触れる機会が多くなるので、ハンドクリームを塗るなどの対策をとってもあまり意味がないと感じられているのでは…?
 
そんな辛い悩みも、今年で最後にしませんか?

次の漢方薬を使うと、その悩みが解消されるかもしれません!
 


そんな魔法のような漢方薬は 当帰四逆加呉茱萸(とうきしぎゃくかごしゅゆ)生姜(しょうきょう)(とう) といいます。
呪文のようなとても長い名前です。恐らく医療用の漢方製剤の中でも一番長い名前ではないでしょうか。
この漢方薬は、『四肢末梢の冷えが強く体調を崩しやすい方で、不定の疼痛を訴える場合に良い』、
いわゆる『冷え症』に用います。
 
ポイント:西洋医学では ‘冷え(自覚症状や体質を指す)’として治療対象としないことが多い
のですが、漢方医学では ‘冷え(ひとつの病気)’として重視します。
 
当帰四逆加呉茱萸(とうきしぎゃくかごしゅゆ)生姜(しょうきょう)(とう   )は10個の生薬から構成されますが、主な役割は次のとおりです。 
桂皮(けいひ)呉茱萸(ごしゅゆ)(さい)(しん)
温め、温かさを全身に巡らせる。
芍薬(しゃくやく)当帰(とうき)
血行を良くして末梢の冷えを改善する。
 
(けい)()(とう)といううまく身体を温めることができない虚弱な方にも対応できる漢方薬がベースになっています。 

当帰四逆加呉茱萸(とうきしぎゃくかごしゅゆ)生姜(しょうきょう)(とう)は、
①   服用後、30分くらいで手足が温まる
②   予防的に使えば次の年にしもやけが見られない
といったようなデータもあるので、是非お試しを。

ウイルス性胃腸炎と漢方薬

ここ最近、急に寒くなり広島でも雪がちらほら降り始めましたね。
やっと冬らしく感じられるようになってきました。
冬場、特に12月~1月にはノロウイルスやロタウイルスなどのウイルスによる感染性胃腸症が流行し、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛や発熱などの症状で来院される患者さんが多くなります。
 
ウイルス性胃腸炎の一般的な治療では、嘔吐や下痢に伴う脱水に対して経口による補液を行い、症状や脱水が強いときには点滴による補液を行う場合もあります。
また、吐き気が強ければ制吐剤、腹痛が強ければ腸管蠕動抑制剤を頓用で使用し、整腸剤を数日服用して様子を見ることが多くなっています。
ほとんどの人は数日で治っていくことが多いですが、その間のつらい症状に苦しむことなく出来るだけ早く治って欲しいですよね…。

そんな時には漢方薬の出番です! 
まず試していただきたいのが 五苓散(ごれいさん) です。この漢方薬は5つの生薬から構成されています。
(下の表は、生薬の主な役割を簡単に示しています。) 
桂皮(けいひ)蒼朮(そうじゅつ)
体を温める
沢瀉(たくしゃ)茯苓(ぶくりょう)猪苓(ちょれい)
体の水分をコントロールする
 
五苓散(ごれいさん)は大人から子どもまで比較的安心して使え、おおよそ8割方はこの漢方薬のみで対応できると思います。
しかし運が悪く胃腸症状が長引いてしまった場合は、再度診療科へ受診し体の状態を診てもらってから、ほかの漢方薬に切り換えるなどの治療をおすすめします。
漢方薬には次の一手となる薬が沢山あるので、患者さん一人一人に合わせた治療が出来るのです。安心してくださいね。
 
五苓散(ごれいさん)の豆知識
今回はウイルス性胃腸炎の治療薬として紹介しましたが、五苓散(ごれいさん)はほかの症状でも広く使われています。
むくみ、二日酔い、暑気あたり、頭痛、めまいなど日常生活でよく見られる症状に対しても効果があるので、興味があればぜひ試してみてくださいね。

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漢方薬のおいしい飲み方 ~高齢者向け~

前回は『子ども向け』の漢方薬のおいしい飲ませ方について紹介しました。
その続編として今回は高齢者の方向けにスポットを当てて紹介したいと思います。
 
まず、なぜ漢方薬が高齢者の方によいと言われているか、ご存知ですか?
それは年齢を重ねるにつれて身体機能の低下や病気の長期化など、同時に複数の病を患う状態になることが多くなってしまうからです。
複数の病を治すためにはいくつもの診療科に通って、何種類もの薬を内服することになる…。
漢方薬には様々な心身の変化や不調、病気に対して細かく対応できる処方が沢山あります。
ですから、漢方薬は高齢者の方のこういった悩みを解決できる、とても有用な薬なのです。 
しかし、いくら有用な薬だといっても、飲みたくないと思ってしまうと意味が無いですよね。
特に高齢者の方の中には、食事の際にむせてしまう方や入れ歯を装着している方など、漢方薬を飲みたくても飲めないあるいは飲みにくい場合があります。
その場合の対処法についても紹介したいと思います。
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① お湯に溶かす、味付けをする
   こちらは、前回紹介した子どもへの飲ませ方とほとんど同様です。
ほかの方法を挙げるとするならば、お粥や味噌汁に混ぜてみると良いでしょう。

 
② 嚥下困難(食事でむせてしまう)の方には
   嚥下困難の方には、原則、汁物にとろみをつけて固めます。とろみは最初スプーン1~2杯から開始し、最大7~8杯まで加えます。
スプーン7~8杯のとろみを加えると、汁物もほとんどゼリー状に固まってきます。お粥などでも嚥下が困難な場合は必要に応じてとろみをつけると良いでしょう。
とろみ以外では、ゼリー状のオブラートにエキス顆粒を包んで内服させる方法もあります。現在は、チョコレート味、イチゴ味など色々な味がついているものまであります。
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③ 入れ歯を装着している方には
   漢方服用の際に入れ歯を外すという方法もありますが、手間な時もありますよね。
そういった場合には、お湯にエキス顆粒を溶かすという方法がよく使われています。他には、オブラートを用いると良いでしょう。
オブラートにも三角形、四角形、円形、立体などの種類があるので、ご自身に合ったものを探してみてください。

漢方薬のおいしい飲み方 ~子ども向け~

『良薬は口に苦し』
漢方薬ほど、この言葉が似合う薬はないと思います。とはいっても、そんな理由で子どもが苦くておいしくない薬を飲んでくれるか?といえば、それは難しいことでしょう。
しかし、美味しく飲む方法が実はあるのです!今回はその飲ませ方の工夫を紹介します。 
まずは薬に対して子どもがどのような反応をするか、年代別に知っておきましょう。 
乳児期(0~1歳)
比較的飲ませやすい
幼児期(2~5歳)
薬に敏感で、しばしば服薬拒否
学童期(6歳以降)
漢方の必要性を理解すれば比較的飲ませやすい
 
漢方を飲ませるのが難しい年代は幼児期です。この間に苦い漢方薬に慣れていくと、もしかしたら食べ物の好き嫌いがない子どもに育っていくかもしれないですね。 
では、肝心の『漢方の飲ませ方』について見ていきたいと思います。
①   甘い漢方薬を飲ませてみる
漢方薬に苦手意識がある子どもには甘い漢方薬から飲ませてみましょう。
比較的飲みやすい漢方薬は、建中(けんちゅう)湯類(とうるい)(黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)小建中湯(しょうけんちゅうとう))、甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)芍薬甘(しゃくやくかん)(ぞう)(とう)麻黄湯(まおうとう)六君子湯(りっくんしとう)桔梗湯(ききょうとう)があります。 
②   味付けをしてみる
1回分の漢方薬を適量のお湯に溶かして溶液を作ります。そして砂糖やココア、麦芽飲料、ハチミツ、アイスクリーム、ヨーグルトなどに混ぜて下さい。
ただ、ハチミツにはボツリヌス菌が含まれている可能性があるので、乳児には与えないように。
ココアや抹茶コーヒーなど少し苦めの味のものと混ぜ合わせると、味と香りが相殺されて飲みやすくなったりします。
アイスクリームやヨーグルトなどの冷たいものは味覚を鈍くさせて苦みをわかりにくくする効果があります。
しかし、胃腸が弱っていたり、風邪の引き始めで悪寒がしている時などには、温かいものに溶かして飲ませたほうが効果も増強します。
 
いかがでしたか?是非試して、子どもが笑顔いっぱいで飲めるようになってもらいたいですね。

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ゆるめの風邪 ~高齢者・虚弱な方向けの漢方薬~

ここ最近、突然寒さが増してきたので少し風邪っぽさや気だるさを感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか?
風邪の漢方薬といえば『(かっ)(こん)(とう)』というイメージですが、患者さんによっては注意が必要な場合があります。
それはまさに、今回のテーマである『高齢者・虚弱な方』に対して特に必要と言えます。
(かっ)(こん)(とう)の構成生薬の中には『()(おう)』があります。この()(おう)にはエフェドリンという成分が含まれており、この作用として尿がでにくくなったり、血圧が上がったりします。
そのため、前立腺肥大症で排尿困難や心疾患のある方に対しては注意が必要です。
(麻黄は『魔界の王様』と思って用心して下さい!) 
ただし、高齢者や虚弱な方に対して(かっ)(こん)(とう)は絶対NG! というわけではありません。発熱を伴うような風邪や頓用に出されたりすることもあります。
またエフェドリンには眠気が起きにくいといったメリットもあるので、車を運転される方にはとてもいい風邪薬でもあります。
それでは、(かっ)(こん)(とう)以外でお勧めできる処方を紹介します。
ご高齢の患者さんの診療でよく見られる、『ずっと風邪をひいた状態』に対しては香蘇散(こうそさん)を用います。

(かっ)(こん)(とう)は風邪の初期(発汗は無く、寒気がする)に対して使うとよく効きます。
この『ずっと風邪を引いた状態』というのは、風邪の初期でもなければ特に重篤感があるようなものではありません。こういったゆるめの風邪に対しては香蘇散(こうそさん)を用います。

香蘇散(こうそさん)には要注意生薬である()(おう)も含まれておらず、また眠気も起きません。
まさに高齢者・虚弱な方に対してうってつけの風邪薬ではないでしょうか?
 
まとめ
高齢者や虚弱な方の風邪に漢方薬を使用するときは、まずその風邪の状態を見極めることが大切です。
『ゆるめの風邪』には香蘇散(こうそさん)、『発熱を伴うような強めの風邪』には()(おう)を含む(かっ)(こん)(とう)。
そして豆知識ですが、(かっ)(こん)(とう)を飲むときはお湯に溶かして服用すると、体も温まり効果もよくなります。
是非お試しください。

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虚実という漢方の考え方

漢方医学では、「虚証(きょしょう)」、「実証(じっしょう)」と分類されます。聞かれたことがあるのではないでしょうか?
世界最古の医学書の一つ「黄帝内(こうていだい)(けい)」には、「虚するものはこれを補い、実するものはこれを瀉す」と記載されています。
つまり「虚」とは不足しているという意味合いです。逆に「実」とは充実して有り余っているという意味です。
ですから「虚」には補う治療を、「実」には瀉する(瀉下、発汗、駆逐するなど)治療が行われます。
例えば主語を栄養とすると、「虚」は栄養失調、「実」は肥満と考えられます。栄養が足らない状態では、人参を主体とする漢方薬です。
食欲を増進する(りっ)君子(くんし)(とう)や栄養失調の結果として体力低下、免疫力低下があることが想定される場合補中(ほちゅう)(えっ)()(とう)などが使われます。
一方、肥満の場合には、瀉下作用のほかに白色脂肪細胞の重量を減少させ、また熱産生を司る褐色脂肪組織を活性化する作用のある防風通(ぼうふうつう)聖散(しょうさん)などが用いられます。
黄帝内(こうていだい)(けい)」にはもう一つ、「病勢が盛んであれば実、抗病反応や生理機能の低下は虚」という記載もあります。
つまり生体防御反応が強い状態、例えば、インフルエンザのように強い病原体に侵されたような場合は、生体は高熱を発し、ウィルスをやっつけようとします。
これは実証の反応を示している訳ですから()黄湯(おうとう)のような実証の薬が適応となる訳です。
ですから日本老年医学会の高齢者に推奨する薬物の中に、インフルエンザに対する()黄湯(おうとう)が掲載されているのです。高齢者だから虚証とは限りません。
今のお年寄りは皆さん元気です。強いウィルスに対抗するために、やはり高熱を発します。
更にガイドラインの解説では、インフルエンザに対しては、熱が上がりきって下がるまで1包ずつ約4時間ごとに内服を続け、発汗解熱したらそこで止めるという使用法が効果的である。
これは高齢者でも基本的に変わらない。急性感染症に麻黄剤で治療を行う際には、短期間で効果が上がりやすい服薬方法により、かえって有害事象を招き難く治癒を促進することができると記載しているのです。
見た目倒しという言葉がありますが、一般に筋骨隆々としたプロレスラーのような方の見かけは「実証」です。
華奢なモデルさんのような方は、一見「虚証」のようにも見えます。でもこうした職業の方はいずれも鍛えているので案外、実証の方も多く、見た目だけでは判断を誤ることもあります。

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嚥下障害、誤嚥性肺炎に対する漢方

超高齢化社会が叫ばれる中、嚥下障害、誤嚥性肺炎を起こす患者さんは年々増えています。

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食べる楽しみが障害されるということは大変ショックなことと想像に難くないのですが、漢方ではその「食べる」ということを非常に重視しています。それは食べることが元気の「気」の源だと考えているからです。
ですから元々は、「気」という字は「氣」と表わしていたのです。
食べられるようにするには、(りっ)君子(くんし)(とう)補中(ほちゅう)(えっ)()(とう)が有名です。
さて、嚥下障害・誤嚥性肺炎に対する漢方薬は、日本老年医学会診療ガイドライン指針案にも推奨されていた半夏(はんげ)厚朴(こうぼく)(とう)です。
原典ではおよそ2000年前の書籍「金匱(きんき)要略(ようりゃく)」に、「婦人、咽中炙臠(いんちゅうしゃれん)有るが如く、半夏厚朴湯、(これ)(つかさど)る」とあります。

つまり、咽喉頭異常感症に対する治療薬として昔から使われてきたものです。
また、咽喉が塞がる感じだけでなく、気分が塞ぎ、不安感や憂鬱間のある時や、咳、吐気に対しても有効な薬です。構成生薬は、半夏、茯苓、厚朴、蘇葉、生姜の5つです。生姜、半夏、茯苓の組み合わせは悪阻(つわり)にも使われる小半夏加茯苓(しょうはんげかぶくりょう)(とう)そのものです。また小柴(しょうさい)()(とう)を合せた(さい)(ぼく)(とう)は喘息にも有用です。
他に嚥下反射を改善する薬としては、ACE阻害薬、ドパミン作動薬(アマンタジン)、抗血小板薬(シロスタゾール)などがあります。
しかしそれだけでは良くならない方もいらっしゃいます。
胃食道逆流が原因の場合には、半夏厚朴湯に茯苓飲(ぶくりょういん)を合せた茯苓飲合半(ぶくりょういんごうはん)()厚朴(こうぼく)(とう)や、半夏厚朴湯に(りっ)君子(くんし)(とう)を併用する必要があります。また腸管ガスが充満し、便秘も酷く、食物が下に輸送されず逆流が起きる場合は大建中(だいけんちゅう)(とう)の併用が必要です。
実際、誤嚥性肺炎の患者さんの胸部単純X線写真を見ますと、ほとんどのケースで横隔膜下に異常ガス像を伴っています。
更に誤嚥性肺炎を繰り返し、高熱の出る場合には、抗菌薬とともに(せい)(はい)(とう)も良く用いられる漢方薬です。

ところで、そもそも嚥下反射が低下した患者さんに漢方薬を飲ませる時どうすればいいかという問題があります。
ゼリー、ヨーグルト、ペースト食に混ぜる、お湯に溶いた後、トロミ剤を混ぜる、その他患者さんが口にできるものに混ぜるなどといった工夫が必要です。
尚、このような場合は、当然ながら、食前または食間といった指示にはこだわることはありません。
 
寝たきりで経管栄養から離脱し、最期まで食を楽しみ、人間らしく生きたいものです。

痛みに対する漢方薬

先日7月12日(日)のNHKスペシャルで、「腰痛・治療革命」と題して放映していました。
ご覧になられた方も多いのではないでしょうか?
内容は、痛みの原因は脳にあり、痛みに対する不安や恐怖を取り除けば症状が改善する方もいるといったものでした。

痛みに対する専門家はペインクリニックと呼ばれ、主に麻酔科に所属する先生方が担っていますが、一般には町のお医者さんとしては少ないのが現状です。
腰が痛い、肩が痛いといって皆さんが受診されるのは整形外科が多いのではないでしょうか?
例えば階段から落ちて腰を打ったという痛みがあります。骨折していなければ、湿布、さらに鎮痛薬が処方されて安静の指示が出てそれでおおよその診療は終わりです。それで普通、痛みは消えていくのですが、数週間たっても痛みが消えずお困りの方もいらっしゃいます。
そこで漢方の出番なのですが、そんな痛みに漢方が効くの?と思われるかもしれませんが、歴史を振り返ってみますと、江戸時代、世界で最初に乳癌のオペに成功した華岡(はなおか)(せい)(しゅう)が麻酔薬として使ったのは、実は「通仙散(つうせんさん)」という漢方薬なのです。さて打撲の初期は痛く腫れて熱を持ちますがそれがだんだん冷えていきます。お風呂に入ると痛みが楽になる。そういう方はまさに漢方薬が適応します。冷えて痛む時は、附子剤(ぶしざい)の出番です。附子(ぶし)という生薬は、生薬の中でも最も温める作用が強く、鎮痛作用を持った生薬です。打った、捻ったという痛みが長引いた時、具体的には、()打撲(だぼく)一方(いっぽう)と附子末、あるいは治打撲一方と桂枝加朮附(けいしかじゅつぶ)(とう)という組み合わせがよく効きます。西洋医学では冷えに対する対処法がありませんが、漢方では冷えを改善する手段があります。ですから冷えのある痛みに対しては漢方の方が優れているのです。
腰下肢痛の場合、いわゆる、ぎっくり腰なら芍薬甘(しゃくやくかん)(ぞう)(とう)桂枝茯苓(けいしぶくりょう)(がん)、あるいは、治打撲一方と()(けい)(かっ)(けつ)(とう)の組み合わせ。高齢者なら八味地(はちみじ)黄丸(おうがん)と桂枝茯苓丸、少し浮腫がみられれば牛車(ごしゃ)(じん)()(がん)と桂枝茯苓丸の組み合わせが有効です。
帯状疱疹後神経痛では麻黄附(まおうぶ)子細(しさい)(しん)(とう)などが効きますが、じっとしていれば痛みはないが、少し触れただけ、風が吹いただけでも痛みを感じるアロディニアという状態に対して、神経周囲組織が炎症後に乾いた状態になっていると考え、そこを潤してやろうという漢方薬、六味(ろくみ)(がん)麦門(ばくもん)(どう)(とう)の組み合わせが不思議なほど効果的です。
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女性と高齢者に多い便秘

男性に比べて「女性」に便秘が多いのはなぜでしょうか?

それは筋力の違い、生理があること(女性ホルモンとの関係)、ダイエットです。
女性のための漢方治療では、積極的に便秘を解消することが薦められています。
その代表は桃核承(とうかくじょう)()(とう)です。月経痛、月経不順、更年期障害、にきびその他の皮膚症状などのときには少しでも大黄(だいおう)の入った漢方薬を用いるとよいとも教科書には書いています。承気湯という名前がつく漢方薬には、大黄と芒硝(ぼうしょう)が含まれています。大黄は刺激性下剤でアローゼンやプルゼニドと同じ成分を含んでいます。芒硝は塩類下剤で酸化マグネシウムと似た成分を含んでいて、便を柔らかくする作用があります。西洋薬の瀉下剤は成分が純粋なだけに最初は良くても毎日連用していたら次第に効かなくなってしまいます。これを耐性(たいせい)といいます。通常量の瀉下剤で効かないという方は早めに漢方薬への切り替えをお勧めします。

さて、高齢者」に便秘が多いのはなぜでしょうか?
それは加齢に伴う筋力の低下、生理機能の低下(体の乾燥=水分不足)などが考えられます。
高齢者の瀉下剤の代表は、麻子(まし)(にん)(がん)です。これにも大黄が含まれています。日本老年医学会の高齢者のための薬物治療のガイドラインにも推奨されています。
最近発売された新薬にアミティーザというものがあります。これは小腸の水分分泌量を上げて便を軟らかくし排泄しやすくする薬です。実は漢方薬にも滋潤剤というものがあります。その代表的なものは、()(おう)や麻子仁、(きょう)(にん)などです。精油成分を含み、便を滑りやすくし便通を改善させる潤腸作用があると言われているものですが、最近の研究で、やはり小腸での水分分泌量を増やすことが明らかになってきています。
日本老年医学会診療ガイドラインでは、麻子仁丸をセンナや大黄末、鉱物性下剤よりもまず先に使うと推奨しています。使い方は、眠前1包で十分。もし効果が弱い時は眠前2包もしくは2包分2(眠前1包、朝1包)でもよいとしています。
もう一つ高齢者向けの瀉下剤として(じゅん)(ちょう)(とう)というものもあります。この違いは、麻子仁丸に比べて大黄の量が半分なのでよりマイルド、虚弱者向けともいえますが、甘草を含みますので長期には偽アルドステロン症への注意が必要です。甘草を含まない麻子仁丸はそうした副作用への懸念のないことも推奨理由の一つなのではないかと考えられます。

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